‘政権交代と医療’ カテゴリーのアーカイブ

政権交代と医療(6)

2009 年 9 月 5 日 土曜日

民主党政策集では、医事紛争の解決策として無過失補償制度の創設を謳っています。

産科医療については既に実施されている仕組みですが、すべての診療科について訴訟提起権とは区別した公的な無過失補償制度を創設しようとするものです。

医療提供側に過失があった場合には医療提供側が賠償することになりますが、過失が明確でなくても、医療事故によって死亡したり高度の障害や後遺症が生じた患者が補償される仕組みです。

賠償の確証がないまま長期化することが嫌で訴訟を避けがちな国民性の日本人ですが、このような制度が創設されれば、かなりの適用申請が上ってくると予想されます。

医療は患者に100%の治癒を約束するものではなく、期待に反して死亡したり後遺症が生じたりすることもしばしばです。

そのような不幸な転帰をとった患者の一定割合が申請するとすれば、相当な数になります。

基金を設けて制度運営する構想ですが、かなりの額の基金が必要となるでしょう。

補償原資には保険料、健康保険料、公的支出を充てる構想です。

保険料というのは医療機関が拠出するのでしょうか。

残念ながら、昨今の医療機関には経営的にゆとりがありません。

健康保険は、ただでさえ医療支出を抑えるのに懸命なのに、医療支出以外にこのような支出が加われば破綻してしまいます。

公的支出に期待せざるを得ませんが、税収が伸び悩む昨今、安定財源が確保できるものかは疑問です。

政権交代と医療(5)

2009 年 9 月 4 日 金曜日

民主党の医療政策を具体的に掘り下げて見てゆきましょう。

まず、「医療」をどうとらえるかの立脚点です。

政策集では「医療は提供する側と受ける側の協働作業」であるという視点が大きく打ち出されています。

現代医療ではごく当たり前の視点ですが、現在の医療制度は、もっぱら提供側の論理が幅を利かせていた時代に設計されたものです。

新政権では、受ける側の論理がよりクローズアップされた制度に再構築されることになるでしょう。

政策集には『医療における患者の尊厳を保障し、安全・納得を得られるための法律』を成立させると明記してあります。

具体的施策として、

○「医療対話仲介者(メディエーター)」を一定規模以上の医療機関に配置

○医療事故発生時の調査委員会の設置を義務付け

○各都道府県に設置される医療安全支援センターが設ける調査チーム(第三者機関)による調査や裁判外紛争処理事業者の紹介

○事故情報については、指定分析機関への届出義務をすべての医療機関に拡大

などが列挙されています。

これらの施策は、医療事故の原因究明と再発防止に役立ちますので、理念的には歓迎すべきところですが、医療経営の視点では、コスト(医療対話仲介者人件費、調査経費など)の投入が必要な施策です。

また、患者側に医事紛争のための材料が入手しやすくなりますので、医療提供側では訴訟や賠償のための経費が大きく膨らむであろうことが予想されます。

医療費の支出構造の中に医事紛争対処費用が大きな割合を占めるような時代が到来します。

増大するコストの手当て策を講じなければ、医療提供側が破綻してしまい、協働作業どころではなくなってしまいます。

政権交代と医療(4)

2009 年 9 月 3 日 木曜日

政権公約(マニフェスト)は、これまでの政権でも100%実現できたわけではありません。

マニフェストに書かれている個々の公約については、これまでは、諸般の事情(たとえば野党の抵抗など)で実現できなかった、という言い訳も寛容されてきました。

法的拘束力はありません。

公約を実現するかしないかは政権の信用度のモノサシですので、実現率が低ければ次の選挙で信用してもらえないだけのことです。

医療については、マニフェストには何十項目もの記載があります。

実現可能性が疑われる項目もありますが、結果として実現できなかった場合、これまで同様、世間は寛容してくれるでしょうか。

新政権は、財源の不明確さからマニフェストの実現可能性が問われ、そのたびにマニフェストを必ず実現すると声高に応戦を続けた末、圧倒的多数の支持を勝ち得ています。

すなわち、「マニフェストを実現する」こと自体が、事実上、最も重要な政権公約となっています。

こういう経緯で誕生した新政権ですので、マニフェストに記載した項目のひとつひとつに重みがあります。

新政権は野党の抵抗を理由にできないくらいの議席数を確保しましたので、実現できなかった場合の言い訳も苦しくなることでしょう。

選挙のたびに、政権は誰がとっても同じ、という醒めた声が巷に囁かれてきましたが、新政権が提示した画期的なマニフェストが実現されるとなると、この選挙結果で国民生活には画期的な変化が訪れることになります。

首相直属機関として設置される「国家戦略局」も、財務省と他省庁との関係を根本から変えようというもので、日本で独自に発展してきた議院内閣制そのものが揺らぎかねない革命的要素を孕んでいます。

行政権の行使に責任を負う、行政権の最高機関は内閣です。

戦前の大日本帝国憲法下では内閣の地位は不安定でした。

外部(枢密院や軍部)の圧力に国政が導かれることもしばしばでした。

そのようなことにならないよう、内閣の地位を確固たるものにしたのが日本国憲法です。

戦後の日本においては、内閣を構成する国務大臣が調整を重ねながら国家戦略を練ってきました。

国家戦略の権限が内閣以外に設けられ、国務大臣間の調整が封じられるようなことがあってはなりません。

厚生労働大臣はしばしば財務大臣と対立します。

マニフェストの記載事項の中には、厚生労働大臣が財務大臣を論駁できなかったような事項も多々あります。

「国家戦略局」の圧力で、財源に責任を持つ財務大臣の発言が封じられ、そのような事項が実現できるようになれば厚生労働大臣としては願ったり叶ったりですが、内閣のありようとしては危険な道に踏み出すことになります。

政権交代と医療(3)

2009 年 9 月 2 日 水曜日

「国会」は日本国憲法の第41条から第64条に、「内閣」は第65条から第75条に規定されています。

国会の役割は、法律案、予算、条約承認の審議と表決、国政に関する調査、裁判官の裁判です。

内閣の役割は、行政権の行使、議案の国会提出、一般国務及び外交関係についての国会報告、行政各部の指揮監督です。

法律の執行、外交関係の処理、条約の締結、官吏に関する事務の掌理、予算の作成と国会提出、政令の制定、大赦・特赦・減刑・刑の執行の免除及び復権の決定なども内閣の役割です。

これらの役割のうち、国(内政)を動かす大きな武器は、法律と予算です。

政権党は、これらの武器を手中に収めることになります。

国会が召集されたら、さっそくこれらの武器を行使することができます。

予算は、来年度予算案の審議を待たずとも、本年度補正予算案を編成して国会提出することができます。

民主党は、現政権下で成立した13兆9000億円の本年度第1次補正予算の執行を停止して不要な事業を廃止し、浮いた財源を2次補正と10年度予算へ振り向ける方針です。

さっそく、第2次補正予算案の項目が報道されはじめています。

たとえば民主党マニフェストで宣言されている「母子加算の復活」です。

一人親の生活保護世帯に対する手当について、母子加算が本年3月末に廃止され、就労支援制度(就労者あるいは職業訓練を受けている者への手当)に振り替わっています。

母子加算廃止の影響を受けた約10万世帯が対象で、10月からの半年で90億円の財源を必要としますが、第1次補正予算の組み替えや予備費で捻出できないほどの額ではありません。

高速道路無料化や後期高齢者医療制度の廃止に比べれば、マニフェスト実現は容易でしょう。

なぜ現政権は、選挙の年に、10万世帯もの票を失いかねないような施策を実施したのでしょうか。

第1次補正予算では、ひとり親家庭への支援強化のための「安心こども基金」が創設(500億円)されていますので、財源をケチることが目的ではなさそうです。

公明党厚生労働部会長の桝屋敬悟衆院議員が廃止の理由を丁寧に述べています。

http://www.iwoman-net.com/qa/masuya-boshikasan20090618.html

母子加算が復活するということは、ここに述べてある理由が全否定されるということになりますが、民意は理屈に勝るというのも民主主義社会を動かす確固たるルールですので、マニフェストの誠意ある実現に邁進してほしく思います。

理由はともあれ、10万世帯の生活は楽になります。

政権交代と医療(2)

2009 年 9 月 1 日 火曜日

現政権の下で作られた平成22年度予算概算要求は、どう処理されてゆくのでしょうか。

例年ですと、9月から12月まで、財務省と各省庁との間で具体的な協議が積み重ねられ、修正、査定を経て、12月末くらいに政府予算案が固まります。

政府予算案は内閣が国会に提出するものです。

年明けには、年度内の予算成立に向け、予算案が国会で審議されます。

年度内に予算が成立しなければ、たちまち景気が冷え込むことになります。

(93年の政権交代時には予算編成が越年し、予算成立が94年6月下旬までずれ込みました。)

内閣は政権党の議員を中心に構成されます。

国会審議では、予算案が政権公約に沿ったものになっているかどうか、厳しい視線に晒されることになります。

民主党は、予算編成を官僚主導から政治主導に切り替えることを政権公約に掲げています。

首相直属の「国家戦略局」を設置し、予算の骨格を作成する方針を示すのだそうです。

このような新組織を設置するためには法改正が必要なので、少し時間を要します。

仮に10月に国家戦略局が設置され、予算の骨格が示されたとしても、それから予算の組み直しをするとなると、さらに時間を要します。

歳出予算が歳入(財源)予算と整合しない限り予算編成は完了しませんので、年内に政府予算案を固めるのは難しいだろうと予想されます。

予算編成が越年したとしても、予算の成立は年度内を目指さなければなりません。

予算を成立させるためには、数多くの予算関連法案も平行して審議し、成立を目指さなければなりません。

たとえば後期高齢者医療制度を廃止するためには「高齢者の医療の確保に関する法律」の改正が必要です。

圧倒的多数の議席数による数の力で少数意見を封じ込めることで、予算案審議や法案審議の期間を短縮することは可能でしょう。

国家の将来を決めるのにそんなことでいいのか、という疑問は残ります。

政権交代と医療(1)

2009 年 8 月 31 日 月曜日

政権が交代することになりました。

今日、8月31日は各省庁から財務省への平成22年度予算概算要求の締切日です。

現大臣が要求しますので、政権交代を前提としたものではありません。

概算要求は6月23日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2009」等を踏まえて7月1日に閣議了解された「平成22年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」に基づいて行われます。

現政権の閣議で決められたもので、政権交代は想定されていません。

年金・医療等の経費についての概算要求基準は「高齢化等に伴う自然増1兆900億円を認め」「無理のない範囲で節約に努め、節約できた分は社会保障に充当する」というものでした。

次に予定される政権政党のマニフェストは、社会保障への多大な税金投入を前提としていますので、1兆円程度の増額要求では到底足りません。

概算要求に対し、今後、財務省による査定作業が始まります。

査定は、新政権の財務大臣の指揮下で行われます。

マニフェストを実現するためには、厚生労働省予算については概算要求額を上回る査定増が必要となります。

すべての省庁について査定増をするわけにはいきません。

歳出予算は歳入(財源)の範囲内でしか組み立てられないからです。

公共事業を預かる省庁の予算が大幅に削られるかもしれません。

景気が後退すると保険料が伸び悩みますので、医療には打撃です。