‘危機管理’ カテゴリーのアーカイブ

宇宙飛行士と経営人材

2011 年 8 月 24 日 水曜日

本学一期生の求職活動を支援する中、人事採用に関する情報には敏感になります。

日本経済新聞の日曜日サイエンス欄に宇宙飛行士の採用基準についての記事がありました。

記事によると、JAXA(日本宇宙航空研究開発機構)の採用担当者が宇宙飛行士に求める最も重要な資質は「人間性」なのだそうです。

「一緒に仕事をしたい」と思わせる雰囲気を持ち合わせていない人は採用されないとのこと。

苦しい訓練の直後であっても見学の子どもたちへ笑顔を見せているかどうか、といった何気ない仕草も試されます。

日本経済新聞出版社からは『宇宙飛行士の育て方』という本も出版されています。

この本の帯書きには「不測の事態にも動じない! チームワークとリーダーシップ、リスク管理が求められる“究極の人材” 彼らはどのように選ばれ、その能力を磨かれるのか。 日本人宇宙飛行士、選抜・訓練担当者への取材からその秘密を明らかにする。」とあります。

本書によると、JAXAの重視する採用基準には、人間性以外にも”リーダーシップ=leadership”(指導力)と”フォロワーシップ=followership”(リーダーに従い、支援する力)があるそうです。

これらについて、JAXAの評価ポイントは以下の5つだそうです。

(1)時間内に決められた作業を、きちんと達成できるように、集団をコントロールできるか。

(2)チーム内に意見の対立があっても、それをまとめて、課題を遂行できるか。

(3)チームに目標を示し、それに向かって作業を進めることができるか。

(4)チームからの指示を正確に実行できるか。

(5)必要な場合、リーダーに対して適切に意見を述べることができるか。

宇宙飛行士は医療経営とはまったく世界が異なりますが、経営人材に求められる資質とまったく同じ資質が求められているところが興味深く思えます。

なお、政治家は、日本という国家を経営するという観点では経営人材に求められる資質と共通のものがありますし、危機管理適性という観点では宇宙飛行士に求められる資質と共通のものがあります。

日本では今、新しい首相が選ばれ、新しい内閣が編成されようとしています。

新しい首相と閣僚には、「一緒に仕事をしたい」と思わせる雰囲気を持ち合わせている人間性と、リーダーシップ適性、フォロワーシップ適性を兼ね備えた人材が選ばれてほしく思います。

円高と放射線影響研究

2011 年 8 月 19 日 金曜日

日本を戦後最高値に迫る円高が襲っています。

また、依然、放射能の脅威は去っていません。

放射能については、その人体影響について未解明なところ(低線量被曝の影響)が人々の恐怖心を煽りますので、人体影響研究の一層の推進が望まれるところです。

人の放射線リスクに関する情報のほとんどは人の被曝集団から得られるものです。

医用放射線被曝集団や職業被曝集団などからも重要なリスク情報を得ることができますが、被曝集団の中で最も例数が多く、追跡期間が長いものは広島、長崎の原爆被爆者です。

放射線の人体に及ぼす影響について世界で最も多くの質の高い調査研究データを蓄積している調査機関は広島と長崎に研究所を置く(財)放射線影響研究所(放影研)です。

世界中で採用されている放射線防護基準の基礎データは、ほとんど放影研が提供しています。

被曝による発癌などの確率的影響は、人口当たりの過剰症例数をその過剰を引き起こしている線量で割ることによって推計されますので、被曝線量の推計は重要な意味を持ちます。

広島、長崎の被爆者については、被爆者ごとの被曝線量の推計についても、莫大な予算を投じて誤差を最小化する研究が行われています。

原爆被爆者では残留放射能や内部被曝の線量推計が過少ではないかとの批判がありますが、リスクは被曝線量と過剰症例との相対関係で算定されますので、被爆者の被曝線量推計が上方修正されれば被曝線量あたりのリスクは低くなり、放射線防護基準も緩和されることになります。

福島原発事故を契機に議論されている放射線許容量の基準値は放影研が推定している原爆被爆者の被曝線量がもととなって算出されているものですので、放影研の研究の信頼度に大きく依存します。

乳幼児の被曝の長期的影響については、原爆投下時点で乳幼児であった被爆者ががん多発年齢に達したところですので、これからの研究が重要となってきます。

ところが円高と放射線影響研究とは密接な関係があります。

放影研は日米共同で運営されている研究機関で、「日米交換公文」によって日米折半で運営管理することになっています。

アメリカからは放影研への研究補助金として年額1400万ドルが支給されていますが、円高が1円進むごとに1400万円が減額されてゆくことになります。

日米「折半」の国際約束を遵守するならば、日本側の補助金も円高が1円進むごとに1400万円を減額することになります。

それでは職員の人件費が賄えなくなりますので、日本側が円高で目減りした分を肩代わりしています。

平成21年度決算(1ドル=87~98円)では、日本政府の国庫補助金は21億7千万円で、米国政府の国庫補助金は12億7千万円でした。

「折半」とはほど遠い実態となっていますが、日本政府による肩代わりを際限なく続けるわけにもゆかず、円高が続けば、放射線の人体影響研究が停滞してしまうことになります。

放射性セシウム汚染牛肉

2011 年 8 月 9 日 火曜日

福島原発事故で飛散した放射性物質に汚染された稲わらを食べていた牛には放射性物質が蓄積しています。

そのため、食肉には1年間摂取を続けたとしても被曝線量が5ミリシーベルトを超えることがないような基準値が設けられ、基準値を超える食肉が流通しないような監視が行われています。

放射性物質による被曝は少なければ少ないほどいいので、基準値の設定根拠を5ミリシーベルトといわず限りなくゼロに近くすべきとの意見もありますが、基準値を厳しくすればするほど出荷制限を余儀なくされる農家が増えることになります。

もとよりすべての生物は放射性カリウムなどの放射性物質を体内に含有していますので、すべての牛肉からは何らかの放射性物質が検出されます。

年間5ミリシーベルトというのは許容できるレベルで、国際的に甘い基準であるということはありません。

チェルノブィリ事故の際、ヨーロッパの広範囲にわたり食肉汚染が問題となりましたが、基準値を超える食肉の流通を阻止することで人々の食の安全を確保することができています。

今回、日本政府が行っている対策も、基準値の設定に多少の違いがあるにせよ、基本的にはチェルノブィリ事故の際と同じです。

問題となっている放射性セシウムは半減期が30年です。

放射性セシウムが1kgあたり500ベクレルを超える牛肉は、人々の口に入る前に処分しなければなりません。

基準値を超える牛肉を保存食に加工して長期間置いたところで、放射性物質の量はさほど減ることはありません。

煮ても焼いても放射性物質の量は変わりません。

処分するしかないのですが、処分しても灰の処理の問題が残ります。

ところで、牛肉は処分されるとして、放射性セシウムで汚染された稲わらを食べていた牛については、国によって扱いが違うようです。

汚染牛を殺処分して農家へ補償を行う国がある一方、汚染されていない飼料を続けて食べさせた上、出荷を許可した国もあります。

放射性セシウムの半減期は30年とはいえ、生物の体内ではセシウムは1~2か月で半分が排出されて置き換わるので、数か月出荷を遅らせるだけで、その食肉は基準値を上回ることはありません。

この考え方であれば家畜を大量に殺処分せずに済みます。

私たちも、原発事故の直後の規制が徹底していなかった当時、知らないうちに放射性物質を体内に取り込んでしまっている可能性がありますが、数か月で多くは排出されていますので、何十年間も体内被曝に怯え続けることは杞憂です。

放射線、放射能と健康被害(11)

2011 年 5 月 18 日 水曜日

16日、193の加盟国代表が参加してWHO総会(第64会世界保健総会)が開幕しました。

本年は、福島原発事故を受け、放射性物質による健康被害の予防対策なども話し合われる予定です。

WHOは、チェルノブイリ事故から20年目の2006年に健康影響についての概況報告書を発表しています。

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html

福島の現時点での汚染(放射線量)はチェルノブイリより少なく、基準値を超える飲食物も流通が制限されていますので、住民の健康リスクはチェルノブイリ以下ということになりますが、当のチェルノブイリの健康影響がどうであったかということが客観的に把握できなければ不安は払拭できません。

チェルノブイリの健康影響については様々な情報が溢れており、中には数百万が癌になるという情報まで流布していますが、種々の情報の中で最も信頼に足る情報は、世界中の健康影響評価の第一人者により、20年間の間に収集した科学的根拠に基づいて分析評価が行われたこの報告書であろうと思います。

This fact sheet gives an overview of the health effects of the Chernobyl accident that can be established from high quality scientific studies. For people most affected by the accident, provision of sound, accurate information should assist with their healing process.

(この報告書は、質の高い科学研究に裏打ちされた、チェルノブイリ事故の健康影響の概況です。事故によって最も影響を受けた人々にとって、信頼おける合理的で詳細な情報の提供は彼らの立ち直りに役立ちます。)

チェルノブイリ原発が爆発して、大気中に膨大な量の放射性物質が放出されたのは1986年4月26日のことです。

放射性物質はベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの広域にわたって堆積しています。

また、薄い濃度の放射能汚染は、ヨーロッパ全域のみならず世界中に拡がりました。

WHO報告書によると、原発周囲で放射能軽減作業等に従事した軍人、発電所従業員、警察官、消防士等の数は1987年までに35万人で、そのうち30km内での作業従事者は24万人でした。

周辺住民については、11万6千人が1986年に非汚染地域に避難し、23万人がその後の数年間で移住しました。

現在は、約500万人が放射性セシウムの堆積量が37キロベクレル/平米以上の地域に住んでいます。

このうち約27万人が厳戒制限区域(放射性セシウムの汚染が555キロベクレル/平米以上)の地域に住み続けています。

WHOの専門家グループは3つの被災国での研究を実施した多くの科学者から構成されています。

WHOの専門家グループは、特に科学的な質を重視しました。

日本の被爆者研究との比較も行われました。

チェルノブイリでの20年間の蓄積線量は次の通りです。

なお、自然放射線量は20年間で48ミリシーベルトですので、汚染地域居住者の500万人は自然放射線のレベル以下の被曝が自然放射線に加わったということになりますが、合計線量は、地球上の自然放射線の分布変動範囲内です。

 

放射能軽減作業従事者(1987年まで)24万人・・・100ミリシーベルト以上

避難者(1986年)11万6千人・・・33ミリシーベルト以上

厳戒制限区域居住者27万人・・・50ミリシーベルト以上

汚染地域居住者500万人・・・10~20ミリシーベルト

 

24万人の放射能軽減作業従事者のうち134人が急性放射線症の発症の可能性がある高線量の被曝を受けています。

このうち28人が1986年に死亡しました。

急性放射線症以外の死亡は、100ミリシーベルトより低い被曝では仮説にしかすぎませんが、専門家グループは、最も被曝量の高い3つの集団に確率的影響があると仮定し、生涯の癌死亡者が4000人超過すると結論しています。

なお、被曝がなくても、この3つの集団では12万人以上が癌で死亡すると推計されています。

汚染地域居住者500万人についても確率的影響を当てはめると、さらに5000人の癌死亡が追加される可能性があり、薄い汚染のヨーロッパでも死亡追加の可能性はありますが、これほど低い線量での確率的影響は実証困難です。

増加が実証された健康影響は、住民(こども)の甲状腺癌と放射能軽減作業従事者の白血病くらいです。

先天奇形や死産などの生殖への影響については、汚染地域と非汚染地域での比較において、被曝との関係を示す統計は出ていません。

 

以上がWHO報告の要点です。

報告書では、甲状腺癌や白血病など、さらなる調査が必要とされている事項もありますが、チェルノブイリ事故で数百万人が癌になるというような情報は、500万人の汚染地域住民の生涯の癌発生率(3人に1人)をそのまま事故影響と短絡させたか、ヨーロッパ人口や地球人口を母数として、自然放射線レベルの被曝に確率的影響を当てはめた結果であろうと思われます。

放射線、放射能と健康被害(10)

2011 年 5 月 8 日 日曜日

昨日の私の記事について、被曝の健康被害についての考え方がますますわからなくなったという意見をいただきましたので補足します。
昭和20年代、30年代に生まれた日本人であれば、学童期に、大気圏内核実験や医療被曝などで、自然被曝以外に20ミリシーベルトを上回る被曝をしているかもしれないというのに、福島の校庭の当面の線量基準を20ミリシーベルト/年に設定することになぜ喧喧囂囂の議論があるのか、という混乱です。
この混乱を解く鍵は、低線量放射線管理に「確率的影響」仮説を適用するICRPの、
「すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない」
という見解にあります。
被曝を過去形の被曝と未来形の被曝とに切り分ける考え方です。
過去形の被曝であれば、200ミリシーベルト以下であれば杞憂でしょう。
なぜなら、これまでの膨大な研究の蓄積により、200ミリシーベルト以下での健康影響は実証されていないからです。
しかし、未来形の被曝については、1ミリシーベルトいえども余計な被曝をしなくてすむよう警戒すべきです。
なぜなら、これまでの膨大な研究の蓄積によっても、数ミリシーベルトでは健康影響がないことが実証されていないからです。
同じ「実証されていない」という事実であっても、それを適用する場面が過去形であるのか未来形であるのかで、その解釈は大きく異なります。
現在の混乱は、過去形の被曝線量と未来形の被曝線量とが混在して発表されていることに起因します。
福島の校庭については、今現在の土壌や大気からの放射線量で今後の被曝リスクを推計し、それが許容線量(たとえば年1ミリシーベルト)を超えるようだったら警戒すべき、というのが本来あるべき放射線管理の考え方です。
福島の校庭の過去形の累積線量についてはすでに相当量に達しているところがありますので、累積線量として20ミリシーベルトという線量基準を設定せざるを得なかったのかもしれませんが、本来的には過去形と未来形とを切り分けて放射線管理を行わなければ、学童に余計な被曝を許してしまうことになりかねません。

放射線、放射能と健康被害(9)

2011 年 5 月 7 日 土曜日

小佐古敏荘教授が政府の放射線管理方針が看過できないとして内閣官房参与職を辞任されました。

国民の立場からは、政府の方針が誤っているのではないかと不安になる出来事です。

小佐古教授の抗議事項のひとつは、福島県の小学校等の校庭利用について、年間20ミリシーベルトの被曝を基礎として導出された線量をもって線量基準が決定されたことに対し、放射線管理上、受け入れられないということでした。

「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです」(小佐古教授)

これに対し、政府側は、年間20ミリシーベルトの被曝を基礎としても問題はないという姿勢を崩していません。

政府と小佐古教授の立ち位置の違いが浮き彫りになっています。

この争点に関し、学問的に、あるいは科学的に明らかになっていることは、このブログでも再三述べてきた通り、

「200ミリシーベルト以下の被曝については、健康影響があるという実証も、健康影響がないという実証も、いずれもない」

ということです。

200ミリシーベルト以下の被曝について実証研究がなされていないということではなく、むしろ、原爆や原発事故の被曝者、放射線従事業務者について数万人、数十万人が調査されているのですが、健康影響が実証されるような研究成果は出ていない、ということです。

それならば20ミリシーベルト程度では健康影響はないと言えるのでないか、というのが現実問題として利害調整の妥協点を見出すことに日々腐心している人々の立ち位置であるとしてもおかしくはありません。

しかし、ICRP(国際放射線防護委員会)の放射線管理の考え方は違います。

実証が難しい極めて低い線量であったとしても被曝線量と健康影響の出現頻度は確率的に比例すると考え、被曝線量については、合理的に達成可能な限り低く(ALARA:as low as reasonably achievable)管理するべきであるというのがICRPの立ち位置です。

低線量被曝の場合に確率的影響があるというのは「仮説」に過ぎないのですが、そもそも安全管理は、起こりうるリスクを最小化するということが立脚点ですので、科学的にあるいは論理的に「仮説」が棄却されない限りは、起こりうることとして想定しなければならないのです。

この最も慎重な考え方は、ICRP勧告第26号で採用されて以来30年以上を経過し、現在は、人間の健康を守るために最も合理的な放射線管理指針として、各国の法的規制に取り入れられ、定着しています。

私もかつて、小佐古教授はじめ専門家の御指導を仰ぎながらICRP勧告第26号を厚生省(当時)の関係法令に取り入れる作業を担っていたことがあるのですが、このような慎重な放射線管理が行われてきたからこそ、私たちは、今日、放射線の医学利用の発達の恩恵を享受することができています。

以前は、病院内での治療用放射線源の紛失事件がしばしば起きていましたが、最近は希有です。

放射線管理習慣の定着の賜でしょう。

ICRP勧告がないがしろにされていれば、医療不信が爆発していたかもしれません。

ICRPは、低線量被曝健康影響「仮説」の適用について、

「この仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり、すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない」

としています。

なお、この「仮説」については原爆症認定訴訟の争点ともなっており、裁判所の判例では、「仮説」が棄却されていない以上、健康影響(原爆放射能に起因する健康障害)は低線量でも起こりうることとされています。

これはICRPの仮説採用の論拠とは異なり、日本の裁判所の独自の判断です。

このほか原子力利用を推進する人、反対する人、それぞれの立場で「仮説」が一人歩きして「定説」化していたりします。

この際、私たちは真実を知り、確かな知識として普及すべきです。

「200ミリシーベルト以下の被曝については、健康影響があるという実証も、健康影響がないという実証も、いずれもない」

これが真実です。

いずれ研究が進み、私たちはより深い真実に近づけると思いますが、誤った理解によって必要以上に恐怖感、不安感を助長し、結果として風評被害を拡大してしまうような愚は避けなければなりません。

原発事故避難者からの被曝

2011 年 4 月 22 日 金曜日

福島県から避難してきた転入者に放射能汚染検査の証明書を提示するよう求めていた自治体があり、その自治体の対応は問題ありとされ、検査証明を求めないこととされました。

微量の放射線で避難者が「放射能」を帯びることはありませんし、微量の放射性物質が避難者に付着していたとしても、接した人に健康影響を与えるようなことはありません。

なお、広島・長崎の被爆者については、以前、「救護被曝」の記事を書きました。

http://www.healthcare-m.ac.jp/app/gm/archives/2791

被爆者の救護・看護・運搬・死体処理等の作業を行った人も被爆者とみなして被爆者健康手帳が交付されている制度についてです。

制度が設けられた当時は、被爆者や被爆死体が「放射能」を帯びるか否かの科学的知見が不明確でしたが、現在の知見では、爆心直下で被爆して直後に運び出されたような場合でない限り、人体や衣類が「放射能」を帯び、接した人を被曝させるようなことはないということが明らかになっています。

人体や衣類が放射能を帯びるほどの線量の被曝をしていれば、即死は免れません。

従って、生存被爆者の「救護被曝」は、後から付着した放射性物質による場合のみということになりますが、当時の放射性降下物の量は、プルトニウムの放射性降下物が多かった長崎原爆においても、多い地点でもプルトニウムで1500ベクレル/平米を超えないくらいの量でしたので、この程度であれば救護被曝は考え難いということになります。

しかし、被爆者健康手帳の交付をめぐる訴訟(平成21年3月25日広島地方裁判所判決)において、広島地裁判決は「身体に放射線の影響を受けたことが否定できなければ救護被爆者と認定するべきだ」とし、判決が確定していますので、法的には、ごく微量の放射性物質の付着であっても、「救護被曝」はあり得ることになっています。

法的解釈がそういうことである限り、冒頭の自治体の対応をあながち否定することはできませんが、科学的にはおかしい対応です。

法理と科学との対立はいたるところにありますが、危機管理の局面では、科学的判断を優先すべきと考えます(あくまで私の考えであり、異論はあるかもしれません)。

放射性降下物、海洋汚染による健康被害

2011 年 4 月 20 日 水曜日

放射能汚染に関する報道では「ベクレル」という単位が頻繁に出てきます。

私の最近の記事でも「ベクレル」を多用しています。

以前も書きましたが、健康影響の度合いは「シーベルト」単位で把握するのがよく、これまでの放射線影響に関する研究において200ミリシーベルト以下の被曝では健康影響の実証が乏しいことから、大雑把な理解として、累積線量が100ミリシーベルトを超えるか否かを現実的な警戒の目安とすればよいかと思います。

ところが、「ベクレル」単位では、その数値をどう評価していいものかを悩みます。

ベクレルとは、放射性物質が崩壊して放射線を放出する頻度を示す単位ですが、放射性物質の種類や被曝の仕方によって同じベクレル数でも人体への影響は異なります。

ベクレルは財布の中の硬貨の「総数」であり、シーベルトは硬貨の「総額」であると例えることができます。

同じ個数であっても一円玉が多いか五百円玉が多いかによって購買力は大きく異なります。

放射性降下物の場合は、それによって汚染された飲食物を摂取することによる内部被曝が問題になります。

1ベクレルの放射性物質を摂取した時に、どのくらいの内部被曝(シーベルト)を人体へ与えるかは、放射性物質の種類ごとに次の通りです。

 

ヨウ素131    0.00002ミリシーベルト

セシウム137   0.0000067ミリシーベルト

プルトニウム239 0.000009ミリシーベルト

 

逆算すれば、ヨウ素131の場合は500万ベクレル、セシウム137の場合は1500万ベクレル、プルトニウム239の場合は1100万ベクレルの摂取で、それぞれ100ミリシーベルトに達します。

かつて、大気圏内核実験による放射性降下物の影響でビール1リットルあたり3ベクレルのセシウム137が含まれていた時代がありましたが、その当時であっても、ビールを500万リットル飲まなければ健康影響が現れない程度の汚染度だったことになります。

(ただしアルコールによる健康影響は数リットルで現れます。)

タービン建屋で検出された1ccあたり数億ベクレルのヨウ素131であれば、誤って一滴を口にしただけで100ミリシーベルトを超えてしまいます。

人工放射能による海洋汚染と健康被害

2011 年 4 月 19 日 火曜日

過去最悪の人工放射能海洋汚染は英国の軍事用核燃料再処理工場からの廃液による汚染で、1950年代から数十年にわたって放射性物質を含む廃液が海に流し続けられていました。

その汚染濃度は1970年代がピークで、セシウム137で1リットル当たり12ベクレル以上の地点もありましたが、海産物摂取による具体的な健康被害の報告はありません。

理論的にも、当該地域の海産物の摂取を続けたとしても、数ミリシーベルトの被曝相当だということでした。

今回の福島原発事故では、30キロ沖合の地点で、セシウム137で1リットル当たり186ベクレルが観測されています(4月15日)。

過去最悪の海洋汚染濃度を上回っていますが、今後の汚染水の海洋放出が防止できれば一時的な汚染濃度の高まりということになるでしょう。

なお、上述の「過去最悪」は、あくまで報告事例における記録です。

実際は、多くの原子力潜水艦が沈没したり、老朽化した原子炉が海深く廃棄されていたりしています。

また、海中核実験も行われていた模様です。

軍事上の記録は表には出てきませんが、過去、相当の人工放射線による海洋汚染があったであろうことは推測されます。

総量がとてつもなく多い海水によって希釈されているとはいうものの、海水を測定すると、セシウム137で1リットルあたり0.003~0.2ベクレル程度が検出されます。

放射性降下物の増減(2)

2011 年 4 月 17 日 日曜日

福島原発の事故では、本来、原子炉の中に閉じこめられているはずのプルトニウムが原子炉の外で検出されています。

燃料ペレット内に固定されているはずのプルトニウムが原子炉の外にあるということは、燃料ペレットが損傷してプルトニウムが溶出しているということです。

そして、この溶出プルトニウムに接した冷却水が、おそらく排気の際に、水蒸気とともに原子炉の外へ拡散したのであろうと推定できます。

溶出プルトニウムは、揮発性でも水溶性でもなく、圧力容器の底に沈殿しますので、大量に溶出しているとしても、水蒸気に乗って外へ放出される量は微量でしょう。

チェルノブイリの場合は、大爆発によって原子炉内のプルトニウムが直接、広域に飛び散っています。

地球のプルトニウム汚染の始まりは長崎原爆からです。

長崎原爆に由来するプルトニウムはグリーンランドの氷柱でも発見されています。

現在、検出されるプルトニウムの大部分は大気圏内核実験に由来します。

そのほかの要因としては、人工衛星搭載原子力電池の大気圏突入、水爆搭載航空機の落下事故(2回)、プルトニウム工場の火災事故、そしてチェルノブイリ原発事故があげられます。

気象研究所は降下物中のプルトニウムの測定も続けています。

半世紀以上にわたって観測しているのは、世界で最も長い記録だそうです。

観測史上最大の年間降下量は、昭和38年の7.4ベクレル/平米でした。

大気圏内核実験が中止されて以降の降下量は1000分の1くらいに減っていますがゼロではありません。

チェルノブイリ原発事故に由来するプルトニウムは日本ではあまり観測されませんでした。

季節的には数ミリベクレル/平米の比較的多いプルトニウムが観測されていますが、黄砂の飛来時期と一致します。

放射性降下物の増減(1)

2011 年 4 月 16 日 土曜日

福島原発よりはるか遠方での放射性降下物が問題となっています。

それによる被曝が長く続くようであれば、蓄積被曝線量を考慮して避難勧告がなされます。

気象庁気象研究所では、昭和32年からずっと、半世紀以上にわたって人工放射能の観測を続けています。

昭和32年以前でも、広島・長崎の原爆や大気圏内核実験で人工放射能が大量に降下しており、昭和29年の北太平洋(ビキニ環礁)での核実験の時には、全国各地で人工放射能が観測されています。

気象研究所のデータによると、昭和32年以降、最も多く人工放射能が降下したのは昭和30年代の終わり頃で、放射性のセシウム137やストロンチウム90について、平米あたり100ベクレル以上が観測されています。

米国とソ連の大型核実験が盛んであった時代です。

昭和40年代以降は、部分的核実験禁止条約の発効で米ソによる大型核実験は少なくなりましたが、遅れた開発国である中国とフランスは核実験を続けています。

すべての核実験が地下実験に移行した昭和55年までは大気圏内核実験が行われ、日本でも平米あたり数ベクレルの人工放射能の降下がずっと続いていました。

すなわち、私を含め、昭和20年代、30年代に生まれた日本人は、幼少期・成長期に大量の人工放射能による被曝を受けているということになります。

昭和55年以降は観測値は低下し、ピーク時の1万分の1の10ミリベクレル前後で推移していますが、昭和61年のチェルノブイリ原発事故の時には、大量の人工放射能が観測されました。

つくば市の気象研究所で、この年の5月に、セシウム137では130ベクレルが観測されています。

原子炉事故で特有の、半減期が短いヨウ素131については5900ベクレルでした。

チェルノブイリ原発事故による人工放射能汚染は平時の1万倍のレベルでしたが、核実験による汚染に比べれば降下期間も限定的です。

私の世代の日本人の蓄積被曝線量としては、桁違いに核実験による被曝のほうが大きいということになります。

今回の福島原発事故による汚染がチェルノブイリ級となったとしても、地球汚染の主役は過去の核実験です。

平成以降、人工放射能の観測値は小さくなりましたが、それでも10ミリベクレル前後の降下物が観測されています。

詳しい解析により、その多くが大陸の砂漠表土由来であることが解明されています。

黄砂の時期には観測値が高くなりますが、これも、過去の中国の核実験のなごりです。

黄砂が多く飛来した月には、ストロンチウム90で160ミリベクレル/平米、セシウム137で820ミリベクレル/平米を観測した地点もありました。

韓国の原子力発電所

2011 年 4 月 15 日 金曜日

韓国の原子力発電所は、釜山の海辺に集中立地しています。

12日、釜山の古里(コリ)原子力発電所1号機が外部電力系統の故障で運転停止しました。

こういう事故情報や対処状況は、韓国の原子力行政の情報開示方針により、日本でも知ることが可能です。

古里原発1号機は韓国の原発第1号機です。

1978年に運転を開始し、2007年に設計寿命を迎えましたが、安全評価に基づいた政府の許可を取得して現在も稼働中です。

30年以上前の技術を背負って稼働しているという点では、福島原発と同様の不安がないわけではありません。

福岡では、福島原発の事故を千キロ彼方の出来事として客観的に論評することもできますが、釜山の原発だと、200キロ圏です。

もし韓国の原発が重大な事故を起こして放射能汚染が拡がったりした場合、風向きや潮流次第では、福岡を直撃することもあり得ます。

韓国政府の原子力行政を全面的に信頼するしかありませんが、些細な事象に至るまで積極的に情報開示が行われているか否かが、その国の原子力行政が信頼に足るものであるか否かの目安となります。

過日の福島原発での放射能汚染水の海への放出について、事前通報がなかったとして、韓国からの批難があります。

単なる公式通報忘れというレベルの問題ではなく、日本の原子力行政への信頼が根底から崩れかねない出来事でした。

大気での放射能拡散が九州や朝鮮半島まで及びうるという予測情報も、日本政府はしばらく発表しませんでした。

逆の立場になったと仮定すれば、自国が汚染される可能性についての情報を積極的に開示しないような隣国政府を信頼できるはずがありません。

原発を有する国同士の相互信頼なくしては、地球規模での原発推進はあり得ません。

情報開示は、地球規模での危機管理においても、きわめて重要なポイントです。

情報統制と風評被害

2011 年 4 月 5 日 火曜日

過日、放射性物質の拡散予測について、情報発出の一元化が日本気象学会の会員に求められていることを述べましたが、昨日、気象庁が連日行っている拡散予測を政府が公開していないことが報道されました。

この報道に対し、官房長官は「少なくとも隠す必要のない情報。誤解を生まない説明を付けて、公表すべきだった」と述べています。

情報は、隠すことで憶測を呼び、それが風評被害を招きます。

『誤解を生まない説明を付けて、公表』することが風評被害を予防するポイントです。

ドイツ気象庁は、日本の気象庁などの観測データに基づいた放射性物質の拡散予測を、連日、天気予報サイトで公開しています。

私もやむなく、ドイツ気象庁のホームページでわが国の気象情報を得るという不自然なことをやっていますが、それによると、今夜から明日にかけて、拡散した放射性物質が薄く西日本全域を覆うという予報が数日前から発出されています。

こういう情報は、新聞報道やネット・コミュニケーションで流れるより早く『誤解を生まない説明を付けて、公表』すべきであると思います。

公表が遅れると、後からいくら政府が『誤解を生まない説明を付け』ても信用してもらえません。

昨日、シンガポールの農畜産物管理庁は、兵庫県で生産された野菜から微量の放射性物質が検出されたため、兵庫県産の野菜と果物を輸入停止にすると発表しました。

放射性物質の拡散情報が知らされていない西日本の県にとっては寝耳に水のことです。

拡散予報が周知されてさえいれば、出荷野菜の放射線モニタリングを万全に行うことができていたはずです。

また、検出された放射線量の正当な評価を即座に発表し、消費者の無用な不安をなくすこともできます。

危機管理と情報管理

2011 年 4 月 3 日 日曜日

私はかつて気象学を学んでいたことがあり、今回の福島原発の事故においても気象の専門家による情報発信に関心を寄せています。
しかし、コンタンさんのブログ( http://konstantin.cocolog-nifty.com/blog/ )により、日本気象学会の会員あてに次の連絡が出されていることを知りました。
「(前略)福島第一原子力発電所の事故が発生し、放射性物質の拡散が懸念されています。大気拡散は、気象学・大気科学の1つの重要な研究課題であり、当学会にもこの課題に関する業務や研究をされている会員が多数所属されています。しかしながら、放射性物質の拡散は、防災対策と密接に関わる問題であり、適切な気象観測・予測データの使用はもとより、放射性物質特有の複雑な物理・化学過程、とりわけ拡散源の正確な情報を考慮しなければ信頼できる予測は容易ではありません。今回の未曾有の原子力災害に関しては、政府の災害対策本部の指揮・命令のもと、国を挙げてその対策に当たっているところであり、当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは、徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません。放射線の影響予測については、国の原子力防災対策の中で、文部科学省等が信頼できる予測システムを整備しており、その予測に基づいて適切な防災情報が提供されることになっています。防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです。会員の皆様はこの点を念頭において適切に対応されるようにお願いしたいと思います」
口蹄疫の流行の際も、公衆衛生に携わる者として、口蹄疫の専門科による情報発信を細かにチェックして、適宜、本ブログへ紹介していましたが、専門家が集まっている日本獣医学会微生物学分科会員あてには、当時、次の連絡がなされていたのだそうです。
「現在実施されている防疫措置は、法律や防疫指針など予め専門家の意見を聞いてとりまとめられたものに従って実施されています。外国の事例や科学的な根拠に基づく批判、意見があったとしても、今はそれを個別に主張するタイミングではありません。(中略)科学者として、責任ある批判、意見を述べたい場合は、しかるべきルートから、その主張を受け止める能力を有する組織(農林水産省・動物衛生課など)に対して行ってください」
いずれの連絡も、専門的な情報は個別に発信せず政府に一元化しなさい、そうでなければ国民は混乱する、という趣旨で発されているものです。
現実は、政府による情報発信が遅れがちであったり、国民が知りたい情報が伝わりにくかったりということが国民の混乱を招いています。
情報管理は危機管理の中でも重要な位置を占めますが、ポイントは「誤った情報」を「正しい情報」で淘汰することです。
専門家が口を閉ざしてしまったら、「誤った情報」が席巻してしまいます。
このブログでは、「正しい情報」を広く伝えたい思いで、専門家による情報を噛み砕いて紹介しています。
危機管理ステージにおける国の基本方針が情報発信の一元化であるというのであれば、このブログでの情報発信も政府が発する情報の伝達に留めなければなりません。
政府には、正しい情報の迅速な発表をお願いしたく思います。

災害想定と危機管理

2011 年 3 月 31 日 木曜日

危機管理の鍵は、「想定外」のことが起きた時に臨機応変に対処することではなく、起こりうる危機を、平時においてどれだけ「想定」しておくことができたかにかかっています。

29日付け毎日新聞「発信箱」(西部報道部・福岡賢正)に次のような記事がありました。

「最大の水位上昇がおこっても敷地の地盤高(海抜6m以上)を越えることはないというが、1605年東海・南海巨大津波地震のような断層運動が併発すれば、それを越える大津波もありうる」

「外部電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しないというような事態がおこりかねない」

「炉心溶融が生ずる恐れは強い。そうなると、さらに水蒸気爆発や水素爆発がおこって格納容器や原子炉建屋が破壊される」

「4基すべてが同時に事故をおこすこともありうるし(中略)、爆発事故が使用済み燃料貯蔵プールに波及すれば、ジルコニウム火災などを通じて放出放射能がいっそう莫大になるという推測もある」

これらの記述はすべて「科学」(岩波書店)の97年10月号に掲載された石橋克彦氏(神戸大)の論文から引いたものだそうです。

一般論として、可能性が小さいリスクを「想定」して大がかりな設備投資をするか否かは、コストなどを考慮した判断が必要となります。

「想定できるが、可能性が小さいので設備投資をしない」という判断は、経営責任者の現実的判断です。

しかし、「想定」できたものを「想定外」とするような組織については、危機管理体制に疑問が湧きます。

「想定」していたか否かは、事故が実際に起きた時の危機管理の成否に直結します。

原発事故放出放射能の医療への影響

2011 年 3 月 31 日 木曜日

事故当初より「放射線量は医療X線の何分の1」という言い方がされています。

もし、医療X線相当量の放射線量であるとしたら、医療で撮影したX線フィルムはことごとく感光してしまいますので、医療への影響が大きくなります。

医療用X線機器メーカーは医療被曝を少なくするための努力を続けていますので、現在は、通常のX線フィルムの1000倍以上の感度のX線撮影装置も医療現場で活躍しています。

福島原発事故以降、東北地方や関東地方で、デジタルX線撮影の画像全体に、小さな黒い点々が写り込んでいるという報告が相次いでいます。

メーカーは、報告が急増した時期や報告医療機関の所在地などから、福島原発から放たれた放射性物質の影響に間違いないという見解を発表しました。

最高感度では通常の100万分の1の感度で微弱な放射線をとらえることができる装置ですので、宇宙線などの自然放射線を検出しても不思議ではありませんが、X線診療室は医療法により、「天井、床及び周囲の画壁は、その外側における実効線量が一週間につき一ミリシーベルト以下になるように遮蔽する」ことになっており、鉛板などで囲まれていますので、X線室の外からの微弱放射線は届きません。

X線室内に微量の放射性物質が漂い、X線検出板に付着したものと思われます。

放射線、放射能と健康被害(8)

2011 年 3 月 31 日 木曜日

福島原発の異常事態が長期化してきました。

周辺の住居地域や農畜産地域の被曝線量については、一時的な被曝量としては自然放射線との比較で健康影響はほとんどないという見解でしたが、長期化するとなると累積放射線量が健康に影響を及ぼすレベルとなる可能性がありますので、避難や摂取制限等の具体的行動を考慮しなければならなくなります。

文部科学省は26日、事故後に高い放射線量が観測された福島原発の北西約30キロ付近の4地点で、23~25日の47~50時間の累積放射線量が1.323~2.829ミリシーベルトに達したと発表しました。

仮にこの状態が1年間続くとすれば、年間500ミリシーベルト前後ということになり、放射線作業従事者の重大事故時の被曝線量限度(国際基準)の500ミリシーベルト相当ということになります。

日本の法令上の緊急作業時の被曝線量限度(100ミリシーベルト。今回の事故対応は特例として250ミリシーベルト)、放射線作業従事者の被曝線量限度(5年間で100ミリシーベルトを超えず、50ミリシーベルトを超える年があってもいけない。女性は3か月あたり5ミリシーベルトを超えてはならず、妊娠期間中は1ミリシーベルトを超えてはならない)を超えてしまいます。

妊婦については、既に、避難を勧告すべきレベルに達しています。

なお、実際に健康影響があるかについては、法令上の被曝線量限度は臨床的に健康影響が認められている線量より厳しく設定されています。

200ミリシーベルト以下の被曝での健康影響は実証に乏しく、500ミリシーベルトは、それを全身に一度に被曝した場合に、白血球が一時的に減少するとされる線量です。

前述の文部科学省の調査では、南約25キロの広野町は46時間で0.197ミリシーベルトでした。十日間で1ミリシーベルトを超えますので、女性や子どもは、屋内退避時間を多くしなければなりません。

北約45キロの相馬市では48時間で0.077ミリシーベルト、西北西約60キロの福島市では26時間で0.052ミリシーベルトでした。

福島原発からの放射性物質の大気放出が早期に収まらなければ、60キロ遠方でも3~4週で1ミリシーベルトを超えてしまいます。

現実的には、屋外にずっと何日も立っているということはありませんので、避難が求められるレベルは50~100ミリシーベルトの累積放射線量が予測される場合だと思います。

原子力安全委員会が定める防災指標は「コンクリート家屋内への退避や現場からの避難」の基準は50ミリシーベルト以上の被ばくが予測される場合としています。

各地での計測値は1時間あたりのマイクロシーベルトで発表されることが多いので、発表線量が1年間持続すると仮定した場合の、健康影響等の目安は次の通りです。

 

累積線量(シーベルト)  1時間あたり線量(シーベルト)

   1ミリ          0.1マイクロ

  50ミリ            6マイクロ

100ミリ           11マイクロ

200ミリ           23マイクロ

500ミリ(白血球一時減少)  57マイクロ

1000ミリ(倦怠感や吐き気) 114マイクロ

2000ミリ(5%が死亡)   228マイクロ

4000ミリ(50%が死亡)  457マイクロ

7000ミリ(100%死亡)  799マイクロ

 

原発の北西、北、南以外の方角での観測値は、風向きの関係で低くなっています。

60キロの地点では、原発事故直後のこれまでの期間においても1時間あたり線量が6マイクロシーベルトを超えることはほとんどなかったようですので、被曝による健康影響への警戒が特に必要な地域は、北西、北、南の方角に限られます。

今後、さらに避難地域等を拡大する場合には、同心円内の一律の地域設定ではなく、きめ細かな線量予測に基づく地域設定が望まれます。

たとえば、西南西60キロの須賀川市は、観測値は1マイクロシーベルト未満ですので、ほとんど被曝を気にかける必要がない地域です。

24日、福島県産キャベツの一律の「摂取制限」の指示が出た翌日、7500株のキャベツの収穫を直前にして、須賀川市の野菜農家の男性が自殺しました。

政府には、このような悲劇を繰り返さないよう、きめ細かな規制と補償を願います。

プルトニウムの軍事利用と医学利用

2011 年 3 月 30 日 水曜日

原子炉の燃料はウラン238です。
ウラン238が中性子を吸収すると、ウラン239に変わります。
ウラン239はベータ線を放出して、23.5分の半減期でネプツニウム239になります。
ネプツニウム239はベータ線を放出して、2.33日の半減期でプルトニウム239になります。
プルトニウム239に中性子がぶつかると、中性子を吸収してプルトニウム240になるか、もしくは核分裂します。
プルトニウム240は、さらに中性子を吸収してプルトニウム241になります。
プルトニウム241に中性子がぶつかると、中性子を吸収してプルトニウム242になるか、核分裂します。
核分裂したプルトニウム239とプルトニウム241は、大きなエネルギーとともに中性子を放出し、核分裂の連鎖反応を惹起します。
ウラン238が中性子を吸収した後に2個の中性子を放出してウラン237になることもあります。
ウラン237はベータ線を放出して、6.75日の半減期でネプツニウム237になります。
このネプツニウム237は中性子を吸収して、ネプツニウム238になります。
ネプツニウム238は、ベータ線を放出して、2.1日の半減期でプルトニウム238になります。
原子炉を運転すると、最初にプルトニウム239が増え、次にプルトニウム240、その次に241、242ができてきます。
原子炉内でのプルトニウムは、多い順に239、240、241、242、238となっています。
プルトニウム238の生成量はごくわずかです。
原子炉の運転が長くなると、プルトニウム240の割合が次第に増えてきます。
軍事用プルトニウム生産炉ではプルトニウム240の比率を少なくするため、ウラン原子炉をごく短期間だけ運転して高純度のプルトニウム239を取り出しています。
産業用原子炉でも短期間の運転をすることで軍事用原子炉に転用することができますので、産業用原子炉の保有国については軍事転用の監視が必要です。
プルトニウム238は、中性子線も放出せず、核分裂も起こしませんので、崩壊エネルギーが原子力電池の燃料として活用されています。
人工衛星や心臓ペースメーカーの電源として活用されていましたが、生成にコストがかかりすぎるため、現在はほとんど生産されていません。
プルトニウム238は放射線(アルファ線)を放出しますが、アルファ線は透過力が小さいので、心臓ペースメーカーとして体内に埋め込んでも被曝による人体影響は考慮されていませんでした。

放射線、放射能と健康被害(7)

2011 年 3 月 30 日 水曜日

カリウムは、毎日、約3.3gを摂取して既存のカリウムと置き換わっています。

すなわち、毎日100ベクレルを経口摂取して内部被曝しているということになりますが、置き換わって排泄されるカリウム量も同じですので、内部被曝線量の増減はありません。

原発事故で大気中に放出される元素に、キセノンやクリプトンなどがありますが、これらは人間の体の構成要素ではありませんので、仮に吸引したとしても人間の体内に留まるのはごく短期間で、ほとんど内部被曝線量は蓄積しません。

同様にセシウムも大量に放出されますが、体内構成比はカリウムの10万分の1ですので、内部被曝線量は限定的です。

しかしヨウ素の場合は、摂取した放射性ヨウ素が既存の体内のヨウ素と置き換わりますので、内部被曝線量が蓄積します。

半減期が短いので、微量でもベクレル数は大きくなり、被曝線量も多くなりますので警戒が必要です。

ヨウ素は甲状腺に集積しますので、10000ベクレルを摂取した場合、甲状腺は0.22ミリシーベルトを被曝します。

核反応生成物として、100万kWの軽水炉には300京ベクレルの放射性ヨウ素が蓄積していますので、原子炉が爆発したりすると大量の放射性ヨウ素が大気中へ拡散します。

チェルノブイリ事故の際は30京ベクレルが拡散しました。

そのような事故情報が得られた場合、放射性ヨウ素が体内のヨウ素と置き換わらないよう予防することが重要となります。

放射性ヨウ素を摂取する危険性が高まったタイミングに同調して放射性ではないヨウ素(錠剤など)を同時に摂取すれば、それぞれの摂取量に比例して体内へ取り込まれ、余分のヨウ素は体外へ排泄されますので、放射性ヨウ素の影響を緩和することができます。

放射性ヨウ素がほとんどない時のヨウ素錠剤の予防的服用は、ほとんどがそのまま排泄され、意味がありません。

また、ヨウ素錠剤の連用は副作用による健康影響のほうが心配となりますので、タイミングよいワンショットの服用がポイントとなります。

なお、原発事故の際に人が放射性ヨウ素を取り込んでしまう主な経路は牛乳の飲用です。

牧草上の放射性ヨウ素が原乳中に濃縮されるためです。

目下、汚染のおそれがある牛乳の流通は規制されていますので、この経路による摂取は心配に及びません。

飲料水、空気を通じての摂取は、濃縮がありませんので、大量の放出がない限り、過度に警戒することはありません。

プルトニウムの検出

2011 年 3 月 29 日 火曜日

本来、外へ出るはずのないプルトニウムが原子炉の外の土壌で検出されています。

ごく微量で、世界中のあちこちの土壌で普通に検出されるプルトニウムの量と同程度であるという理由で健康影響は否定されています。

今回検出されたのは、プルトニウム238、239、240の3種類です。

この3種類の構成比で、原発由来であるか核爆発由来であるかが推定できます。

原子炉を長期間運転した後の構成比は、プルトニウム239が59%、プルトニウム240が24%、プルトニウム241が11%、プルトニウム238が2%です。

プルトニウム原爆はプルトニウム239を高濃度(90%以上)に濃縮したものが原料ですので、プルトニウム239の構成比が高くなります。

プルトニウム240が邪魔をして核物質の一部しか爆発しない可能性があるため、プルトニウム239を濃縮することでプルトニウム240の比率を低めています。

従って、プルトニウム240がある程度検出されれば、原発由来だと推定できます。

65年前に長崎に投下された原子爆弾はプルトニウム原爆で、大量のプルトニウム239が世界中に拡散しました。

プルトニウム239の半減期は2.4万年ですので、長崎原爆由来のプルトニウムに関しては、65年前も現在も汚染の度合いは一緒です。

その後も、大気圏内で核兵器の爆発が繰り返されましたので、総計5トンのプルトニウム239が世界中に降り注いでいます。

プルトニウムは、自然界ではウラン鉱石中に微量に存在するだけですので、土壌で普通に検出されるプルトニウムは、すべて人工的なものです。

今回、原発での構成比が低いプルトニウム238も検出されていますが、これは、半減期が88年と比較的短く、放射能強度が桁違いに大きいものです。

プルトニウム238は、1961年から1982年まで、原子力電池として人工衛星に搭載されていました。

これらの人工衛星が大気圏へ再突入すると、搭載されているプルトニウム238が大気中に拡散します。

大気圏上層から地上までの降下には長い年月を要しますので、今回検出されたプルトニウム238は人工衛星由来のものかもしれません。

放射線、放射能と健康被害(6)

2011 年 3 月 29 日 火曜日

放射能の強さについて「ベクレル」という単位が報道されるようになってきました。

健康影響の度合いを把握するには「シーベルト」単位で起きていることを観察したほうがわかりやすいのですが、事故現場で時々刻々の放射能の強さを測定している技術者の立場では、放射能計測器が示す単位をそのまま伝えたほうが速報性があります。

電球の明るさを、文字が読める度合いで表現するより、60ワットだとか100ワットといった光源のエネルギーで表現するようなものです。

同じワット数でも電球の種類によって実際に感じる明るさは異なります。

省エネ電球で「10ワットで60ワットの明るさ」を得ることもできます。

同様に、同じベクレル数でも条件によって人体への影響は大きく異なりますので、「シーベルト」単位で意味を伝える報道に着目したほうがいいでしょう。

遠くの100ワット電球では字が読めないのと同じく、ベクレル数が大きくても、物質との距離次第でシーベルト数は大きく上下します。

ベクレルとは、放射性物質が放射線を出して別の物質に変わる「崩壊」という現象が起きる頻度を示す単位です。

崩壊ごとに放射線が放出されますので、崩壊の頻度で放射能の強さを知ることができます。

1秒間に1個が崩壊すると1ベクレルです。

先日、タービン建屋地下の水から「1ccあたり29億ベクレルの放射性ヨウ素が検出された」という誤報が流れましたが、これは1ccあたり29億個の放射性ヨウ素が崩壊しているという意味の報道でした。

あまりもの数値の大きさに面食らってしまいますが、原子の数を計測しているわけですので、ベクレル単位だと大きな数になります。

たとえば、私たちが日常的に摂取しているカリウムには、0.0117%の半減期12.8億年のカリウム40という放射性物質が混じっています。

半減期が長いので滅多に崩壊しないのですが、それでもカリウム1gを計測すると、30ベクレルの放射線が検出されます。

カリウムは岩石中にも多く含まれていますので、たとえば玄武岩1kgを計測すると200ベクレル以上の放射能強度を示します。

食品中にも、たとえば白米1kg中には1.1gのカリウムが含まれていますので、白米1kg中の放射能強度は33ベクレルです。

海水1リットルには0.4gのカリウムが含まれますので、海水1リットルあたりでは12ベクレルです。

カリウムは必須元素のひとつであり、日常的に摂取していますので、成人の体内には140gのカリウムが常在します。

すなわち、人間自体がカリウムに由来する分だけでも4000ベクレルの放射能を有していることになります。

ちなみに、140gのカリウムから1mの距離に1年間いれば、0.8マイクロシーベルトの被曝です。

人混みの中での生活が長い人の場合、人間からの被曝線量は年に十数マイクロシーベルトということになります。

ところで、ヨウ素は半減期がカリウムの数百億分の1ですので、カリウムの数百億倍のスピードで崩壊が起きていることになります。

従って、放射性ヨウ素で汚染された水からは億単位のベクレルが検出されることが起こり得ます。

半減期が短いので短期間でベクレル数は小さくなってゆきますが、億単位ともなると、多量の放射線が放出されていることには相違ありません。

 

放射線、放射能と健康被害(5)

2011 年 3 月 26 日 土曜日

微量の放射線について、ある人々は健康にほとんど影響はないと言っています。

しかし、ある人々は危険だと言っています。

どちらが正しいのでしょうか。

実は、どちらも正しいのです。

放射線が細胞に当たると、それを傷つけます。

しかし、傷ついた細胞はやがて死んで排除されますので、ほとんどの場合、健康影響は出現しません。

しかし、運悪く、細胞内のDNAが致命的でない程度に傷ついて、むしろ細胞が異常増殖するようにDNAが書き換えられてしまったら、その細胞は「癌」化してしまいます。

確率的には非常に小さいことですが、起こり得ないことではありません。

放射線に限らず、様々な要因により、細胞の「癌」化は人間の体の中では日常的に起きているのですが、人間には修復力が備わっており、異常細胞はほとんど排除され、容易に癌へは発展しません。

すなわち、発癌の確率は極めて小さいので、微量の被曝による発癌の可能性はほとんどないと言うことができます。

しかし、極めて小さいとはいえ、可能性はゼロではありませんので、微量であっても、被曝による発癌の可能性は否定できません。

被曝線量が10倍になれば、発癌確率は10倍になり、被曝線量が100倍になれば、発癌確率は100倍になります。

これが放射線による健康被害の「確率的影響」です。

確率現象を理解する場合、「宝くじ」に例えるとわかりやすいかも知れません。

宝くじで100万円以上が当選する確率は約5万枚に1枚です。

宝くじを1枚だけ買った人は、5万分の1の確率で100万円を手にします。

これは、日常的にはほとんど起こらない確率ですので、「ほとんど当たらない」と言ってもよいくらいです。

しかし、宝くじを買う人は、当たる可能性があるからこそ買っているわけで、「当たらない」と言い切ることも間違いだということになります。

宝くじを500枚買えば、100万円以上の当選金を得る確率は100分の1になります。

これは、身近に起こり得る確率ですので、「ほとんど当たらない」とは言えなくなります。

放射線の場合、500ミリシーベルトを被曝してしまった人に対して「健康にほとんど影響はない」とは言えませんが、1ミリシーベルトの被曝について有識者たちが「ほとんど影響はない」と言っているのは、客観的な観察だと言えるでしょう。

しかし、1ミリシーベルトを被曝した人の不安が膨らむのは、宝くじを1枚だけ買った人の夢が膨らむのと同じことで、人間の主観として当然のことでもあります。

確率的影響を客観的に捉えることを人々に求めるような社会であれば、宝くじは売れません。

主観的判断も尊重しなければ、人間社会は円滑に運営できません。

放射能の風評被害と健康被害(2)

2011 年 3 月 25 日 金曜日

風評被害は現実の被害で、放射能食品汚染の健康被害は仮定の被害です。

「放射能汚染地帯」という風評が拡がってしまい、福島県から避難された人が宿泊拒否されたりと、思いもよらぬところで被害が発生しています。

ここで、今般、急遽設定された暫定基準値について解説します。

食品衛生法に放射能汚染についての基準が設定されていなかったために「暫定」的に設定された基準値ですが、何の根拠もなしに設定されたのではなく、原子力安全委員会が示した「飲食物摂取制限に関する指標」が根拠となっています。

この指標自体は平成12年4月に「原子力発電所等周辺防災対策専門部会」が提出したものです。

原子力安全委員会によれば「この指標は災害対策本部等が飲食物の摂取制限措置を講ずることが適切であるか否かの検討を開始するめやすを示すものである」ということですので、この値を超えたら流通停止が必要だと直ちに言えるようなものではありません。

今回の非常事態を受け、規制するかしないかを線引きする基準値をいつまでも出さないわけにはいかないのですが、風評被害も含めて影響がきわめて大きい判断になりますので、ただちに「検討を開始」して、妥当な結論を導いてほしかったところです。

健康影響の尺度となる基準値を発表し、その基準値を超えた作物を出荷停止すると同時に、「出荷停止した農作物でも健康に影響はありません」と発表するのは自己矛盾です。

多くの国民は混乱し、混乱が風評被害を招きます。

放射能の風評被害と健康被害(1)

2011 年 3 月 24 日 木曜日

食品衛生法は「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止」することを目的としています。

食品衛生法第6条第2号により「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの」の流通は禁止されます。

放射能については、原子力安全委員会により示された「飲食物摂取制限に関する指標」が暫定規制値とされ、これを上回る食品については食品衛生法第6条第2号が適用されることとなりました。

ところが、原子力災害対策本部長(総理大臣)から都道府県知事へ「当分の間、出荷を控えるよう関係事業者に要請すること」という指示が出され、県内で食品衛生法の暫定基準値を超える放射性物質が検出された場合、その農産物が生産された都道府県全域を対象として出荷が停止されました。

食品衛生法上の出荷制限は該当する農家に限定されます。

今回の措置は、原子力災害対策特別措置法に基づく指示だということです。

事故原発が立地する福島県も、隣接する茨城県も栃木県も群馬県も面積が広い県で、県内から出荷される農産物のほとんどは、食品衛生法上は出荷停止の必要がないものです。

根拠の乏しい出荷制限は風評被害を招きます。

「基準値を下回っていることが確認された地域で生産された農産物については出荷停止を解除、産地名を明示して出荷することを認める」ということですが、後の祭りでしょう。

これらの県では、これから沿岸部の被災者を受け入れていただく大事な役割を担っていただかなければなりませんので、風評被害によって無用の経済低迷を招くようなことは避けなければなりません。

農産物の放射能汚染を警戒しているのは、それを長期間ずっと摂取し続けた場合に健康被害を起こす可能性がある、という点ですので、一刻一秒を争う事項ではありません。

汚染されているか否かを丁寧に検査し、該当するものについては着実に規制してゆく体制を整えることで、食品の安全は守られ、国民にも安心を与えることができます。

汚染されていることを前提とした措置を大雑把に実施するようでは、あえて風評被害を作っているようなものです。

福島原発の人的被害

2011 年 3 月 22 日 火曜日

チェルノブイリ原発事故の死者数については諸説ありますが、はっきりと確認されているのは33名の運転員と消防士だけです。
しかし、このほか、この事故による被曝で4千人ががんで死亡するという推計(IAEAの公式見解)がなされています。
チェルノブイリでは多量の「放射能」が広域に放出されたためです。
30キロ圏に居住していて移住を強いられた16万人の視点では、がんで死亡した人はすべて被曝が原因だと考えます。
そういう感情に起因し、チェルノブイリ事故被曝による死亡数を数万人と見積もる説も生まれています。
現代社会では数人に1人はがんで死亡する運命ですので、被曝しなかったとしても16万人のうち数万人はがんで死亡するのです。
その原因をすべて被曝に求めたくなるのは、自然な住民感情かもしれません。
福島原発の場合は、現在発表されている程度の「放射能」の放出で、今後も放出が抑えられれば、被曝によるがん死亡は確率的影響を考えてもゼロに近いと考えられます。
しかし、原発周辺住民の視点では、今後、がんを発病した人はすべて被曝も原因のひとつだと考えます。
日本では、がんで死亡するのは3人に1人以上です。
無用な混乱を避けるためにも、放射線の健康影響についての知識の普及が望まれます。
なお、福島原発について、現時点において公表されている人的被害は次の通りです。
http://www.kantei.go.jp/saigai/
<第一原発>
11日
行方不明    2名
両足骨折    1名
負傷の程度不明 1名
軽症      2名
急病      2名
不調      2名
12日(1号機爆発)
負傷      4名
14日(4号機爆発)
負傷     11名
<第二原発>
11日
死亡      2名
重症      1名
軽症      2名

放射線、放射能と健康被害(4)

2011 年 3 月 20 日 日曜日

厚生労働省は食品・飲料水などを6項目に分けて汚染基準値を暫定的に定め、放射能汚染の基準値を超える飲料水や生鮮食品を出荷させないよう都道府県に通知しました。
この暫定値は、長期間摂取し続けても被曝線量が1ミリシーベルトを超えないような値に設定されています。
ヨウ素やセシウムなどの放射性物質が基準値を超えた場合、出荷が差し止められます。
原発事故で放出される放射性物質は半減期の短いものが多く、半減期が比較的長いヨウ素131(半減期8日)、セシウム134(半減期2年)、セシウム137(半減期30年)、ストロンチウム90(半減期30年)が健康被害を考える上で重要な物質です。
万が一、炉心の放射性物質が大気中に飛び散ったりすれば、プルトニウム239(半減期2万4千年)やウラン235(半減期7億年)も問題となります。
プルトニウムやウランは放射能だけではなく腎臓への毒性もありますので、炉心の封じ込めだけは確実に行わなければなりません。
実は、これらの物質は、チェルノブイリ以前においても過去の大気圏内核実験や広島・長崎の原爆で世界中に拡散し、いまだに放射線を放ち続けています。
半減期30年の物質では、放射線量は4分の1にしか減っていません。
私たちは日常的にこれらの放射性物質に汚染された食物を口にしているのです。
しかし、健康影響を心配するには及びません。
地球や大洋はそれらによる影響を薄めるには十分に大きく広く、農産物や海産物から検出される放射線量はごく微量です。
今回の福島原発事故でも、遠方で微量のヨウ素やセシウムが検出されていますが、セシウムは時間とともに拡散し、健康影響を与えないレベルとなってゆくはずです。
ただし、ヨウ素は体内へ取り込まれやすいので、半減期を十数回繰り返すくらいの期間は警戒が必要となります。
飲料水や生鮮食品について厚生労働省が汚染を警戒する通達を出したのは当然のことでしょう。
ガイガーカウンターの放射線検出力は鋭敏ですので、食品の放射能検査は比較的簡易です。

放射線、放射能と健康被害(3)

2011 年 3 月 19 日 土曜日

前回、健康に何らかの影響が出るのは100ミリシーベルト(10万マイクロシーベルト)以上だと書きましたが、200ミリシーベルト以下の被曝での健康影響は実証に乏しく、低線量被曝の人体への作用については議論が分かれています。

高線量被曝の健康影響については、広島・長崎の被爆者の追跡調査などによって実証されています。

(全身に一度に)500ミリシーベルトを被爆すると白血球が一時的に減少します。

1000ミリシーベルトを被爆すると倦怠感や吐き気が起こります。

2000ミリシーベルトを被曝すると5%が死亡します。

4000ミリシーベルトを被曝すると50%が死亡します。

7000ミリシーベルトを被曝すると100%死亡します。

私たちは自然界から年に1~2ミリシーベルトの被曝を受けており、一生の間に100~200ミリシーベルトくらいの被曝を受けます。

以上より、100ミリシーベルトを健康影響の判断の目安として、法規制などを整備するのは妥当なところでしょう。

国民の放射線障害の防止を図るために制定された「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」では、一般人がやむを得ずさらされる放射線の限度(医療被曝を除く)を年間1ミリシーベルトとしています。

生涯で100ミリシーベルト前後ということになりますので、十分に安全な基準です。

原子力発電所であれ、研究機関であれ、医療機関であれ、放射線を扱う施設においては、一般人がこれ以上の被曝をすることがないように規制されています。

医療の場合、医療法や薬事法により、放射線機器や放射性医薬品の扱いに厳しいルールが定められています。

放射線を扱う事業所で働く人の安全確保については「電離放射線障害防止規則」によって放射線作業従事者の被曝線量の限度が定められています。

放射線作業従事者は5年間で100ミリシーベルトを超えないこととされています。

また、50ミリシーベルトを超える年があってもいけません。

なお、女性は3か月あたり5ミリシーベルトを超えてはならず、妊娠期間中は1ミリシーベルトを超えてはなりません。

「電離放射線障害防止規則」には、今回のような緊急作業を想定しての線量の限度も定められています。

健康影響の判断の目安であるところの100ミリシーベルトが緊急作業時の被曝線量の限度です。

今回の福島原発の事故に際しては、この限度を守ると15分程度しか作業時間が確保できないことから、特例として250ミリシーベルトに引き上げられました。

健康影響が実証されていないレベルの被曝線量ではありますが、作業員の今後の入念な健康管理が必要でしょう。

なお、国際基準では、重大事故時の被曝線量限度は500ミリシーベルトとなっています。

原発事故と危機管理

2011 年 3 月 18 日 金曜日

危機管理は、常に、起こり得る最悪の事態を想定した態勢で臨まなければなりません。

目下、燃料棒を冷やすための放水が進行中です。

また、冷却装置の電源確保も着々と進められています。

これらが成功することを祈っていますが、危機管理という観点では、同時並行で成功しなかった場合の方策をスタンバイしておく必要があります。

成功を前提とすれば「取り越し苦労」となってしまいますが、失敗が明らかになった時点で次の策を検討するようでは手遅れです。

特に、原発事故の場合、失敗確認の時点では放射線量が多くなりすぎて次善策を実施しようにも近づけないということになりかねません。

成功か失敗かの早めの見極めも重要なポイントとなります。

「失敗」の目安は、放水に伴って生まれる大量の水蒸気に放射性物質が大量に含まれるような事態となった場合です。

これは格納容器の損傷など、重大な事態への進展を意味します。

こうなると、高熱で気化するような物質で冷やすことは諦めなければなりません。

水に代えて、錫などの溶けやすく気化しにくい金属を大量に投入することが次善策となります。

この方法は、チェルノブイリ事故でのノウハウが豊富なウクライナから日本政府に提案されています。

最後の手段としては、チェルノブィリと同じく、大量のコンクリートを流し込んで、原子炉ごと封じ込めてしまうことです。

放射線を遮蔽できる程度に分厚いコンクリートで原子炉を覆ってしまえば、広域の汚染は免れることができます。

いずれにせよ、大量の錫やコンクリートの調達は一朝一夕ではできません。

「取り越し苦労」は願ってもないことで、それを承知で万全の準備が必要です。

放射線、放射能と健康被害(2)

2011 年 3 月 18 日 金曜日

16日、文部科学省は、福島第1原発から北西約20キロの福島県浪江町周辺で、1時間当たり195~330マイクロシーベルトの放射線量を観測したと発表しました。

健康に何らかの影響が出るのは100ミリシーベルト(10万マイクロシーベルト)以上だとされていますので、330マイクロシーベルト/時の放射線に2週間も晒されていれば健康影響があることになります。

屋内に退避していれば遮蔽によって被曝線量を少なくすることができますが、ずっと屋内に閉じこもっておれるはずはありません。

幸い、観測値がずっと高止まりということもなく、他の観測地点ではこんなに大きな値ではないようですので、当面は健康被害を過度に恐れることはありませんが、国民を安心させることを意図しての「医療被曝より少ない線量なので健康に影響はありません」との喧伝には説得力がありません。

医療では、検査によって疾患を発見するメリットと被曝によって健康被害を起こすデメリットとを天秤にかけて、疾患発見のメリットのほうが大きいという判断でX線検査が実施されています。

何の病気の疑いもない人に闇雲にX線検査を行うことはありません。

結核が少なくなった現在は、数十年前のように学童全員に胸のX線検査を毎年行うようなことはありません。

胃がんの罹患リスクが小さい若年層は胃がんの集団検診の対象外です。

集団検診での胸のX線検査の被曝量は50マイクロシーベルトくらいで、胃がん検査はその十倍くらいです。

このくらいの線量であっても、集団検診の場合は全国で毎年何百万人も被曝させることになりますので、「確率的影響」を考えて検査対象者を絞り込んでいるのです。

仮に、確率的に、胃がん検診の被曝量で十万人に一人が発癌するリスクがあるとしても、胃がん検診を十万人に行えば、百人以上の胃がんが早期発見できますので、被曝のリスクにかかわらず胃がん検診の受診の推進に意義があるというわけです。

逆に、十万人検査しても胃がんが早期発見できる見込みが薄い若年層に対しては、被曝のリスクを考慮して胃がんの集団検診は行いません。

放射線、放射能と健康被害(1)

2011 年 3 月 17 日 木曜日

放射線は目に見えませんので、恐怖心が煽られがちです。

目に見えないものについては正確な知識で状況を把握しなければなりませんが、残念ながら、知識のもととなる「情報」が整理されないままにメディアに流れていますので、混乱に拍車をかけています。

まず、基本的なことですが、放射線と放射能との違いについての知識が、健康被害を考える上で重要です。

「放射線」については、昨日午前の時点において、各地で計測されている線量については、福島第一原発のごく周辺を除いては、「健康影響はほとんどない」という政府発表を信じてもいいくらいの少ない線量です。

(昨日午後、別の計測値を文部科学省が発表しましたが、それは慎重な評価が必要な値です。詳細は後日記載)

それでは、なぜ30キロ圏に退避などの制限をかけるのでしょうか?

なぜ30キロより遠方を飛行していたヘリコプター乗務員の「被曝」を問題視しているのでしょうか?

それは「放射能」についての警戒が必要だからです。

「放射能」と「放射線」との違いは、「蛍」と「蛍が放つ光」との違いで例えてみます。

「放射能」=「蛍」で、「放射線」=「蛍が放つ光」です。

蛍には光を放つ能力が備わっており、蛍がいる所では蛍の光を見ることができます。

蛍がたくさん集まっている所は、蛍の光で明るさが増します。

放射性物質(放射性同位元素)には放射線を放つ能力があり、その能力のことを「放射能」といいます。

放射能を備えた物質がたくさん集まった所では、放射線量が多くなります。

福島原発が今どういう状況にあるかといえば、

(1)  非常に強い「放射能」を備えた核分裂物質が原子炉内で暴れており、「放射線」をたくさん放出している。

(2)  (1)の放射線の影響で「放射能」を帯びた放射性物質が、少量、大気中に放出されている。

という事態です。

(1)  については、その「放射線」はあまり遠くまでは到達しません。

原発正門で中性子線が検出されていますので原発敷地の外には漏れていますが、住居地域までは到達していないだろうと思います。

原爆放射線の場合も、爆心から2キロ以遠まで到達した放射線量はわずかでした。

(2)  については、「放射能」を帯びた物質が原子炉周辺の大気を漂っています。

水素爆発とともに比較的上空へ放出された「放射能」は、風下をずっと遠方まで拡がってゆきます。

この遠方まで到達した「放射能」から放たれた「放射線」が遠方の測定器で計測され、200キロ以上離れた東京や神奈川などでも通常の数倍の測定値が出ているのです。

遠方では「放射能」もかなり薄まっていますので、それらから放たれる「放射線」量は健康影響を過度に心配するほどの量ではありません。

チェルノブイリやスリーマイル島の過去の事例からの類推では、「放射能」を帯びた放射性物質は、ヨウ素、キセノン、セシウムといった空気より重い元素が主ですので、ほとんどは原子炉周辺の地域に沈降するはずです。

また、たとえばヨウ素の半減期は8日、キセノンの半減期は3.8分ですので、遠方へ運ばれてゆくうちに放射能は弱まってゆきます。

ただ、風に乗って遠方まで「放射能」が運ばれていることは間違いありませんので、少量の「放射能」がたまたま人に付着するおそれがあり、その点について警戒が必要となります。

蛍の例に戻れば、ずっと遠くで蛍を鑑賞している人の掌に迷い蛍がたまたま停まったら、掌は蛍の光で明るくなります。

放射性物質もたまたま人に付着してしまったら、そこで放射線を放出し続けることになるのです。

「放射能」も目には見えませんが、放射性物質の原子が数十個付着しただけでもガイガーカウンターで検出することができます。

少しの付着では、放たれる放射線量は健康影響を心配するほどの量ではありませんが、肌に直接付着したり吸入したりすることはなるべく避けたほうがよいので、微量の「放射能」の付着のリスクがあり得る半径30キロ圏に政府は注意を呼びかけているというわけです。

スリーマイル島事故の時には16キロ以遠での付着例があったようです。

半径30キロ圏内を外部換気を遮断して車で短時間通過するだけなら付着リスクは限りなくゼロに近くなりますので、被災者救援のための通行まで制限するのは行き過ぎかもしれません。