16日、193の加盟国代表が参加してWHO総会(第64会世界保健総会)が開幕しました。
本年は、福島原発事故を受け、放射性物質による健康被害の予防対策なども話し合われる予定です。
WHOは、チェルノブイリ事故から20年目の2006年に健康影響についての概況報告書を発表しています。
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html
福島の現時点での汚染(放射線量)はチェルノブイリより少なく、基準値を超える飲食物も流通が制限されていますので、住民の健康リスクはチェルノブイリ以下ということになりますが、当のチェルノブイリの健康影響がどうであったかということが客観的に把握できなければ不安は払拭できません。
チェルノブイリの健康影響については様々な情報が溢れており、中には数百万が癌になるという情報まで流布していますが、種々の情報の中で最も信頼に足る情報は、世界中の健康影響評価の第一人者により、20年間の間に収集した科学的根拠に基づいて分析評価が行われたこの報告書であろうと思います。
This fact sheet gives an overview of the health effects of the Chernobyl accident that can be established from high quality scientific studies. For people most affected by the accident, provision of sound, accurate information should assist with their healing process.
(この報告書は、質の高い科学研究に裏打ちされた、チェルノブイリ事故の健康影響の概況です。事故によって最も影響を受けた人々にとって、信頼おける合理的で詳細な情報の提供は彼らの立ち直りに役立ちます。)
チェルノブイリ原発が爆発して、大気中に膨大な量の放射性物質が放出されたのは1986年4月26日のことです。
放射性物質はベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの広域にわたって堆積しています。
また、薄い濃度の放射能汚染は、ヨーロッパ全域のみならず世界中に拡がりました。
WHO報告書によると、原発周囲で放射能軽減作業等に従事した軍人、発電所従業員、警察官、消防士等の数は1987年までに35万人で、そのうち30km内での作業従事者は24万人でした。
周辺住民については、11万6千人が1986年に非汚染地域に避難し、23万人がその後の数年間で移住しました。
現在は、約500万人が放射性セシウムの堆積量が37キロベクレル/平米以上の地域に住んでいます。
このうち約27万人が厳戒制限区域(放射性セシウムの汚染が555キロベクレル/平米以上)の地域に住み続けています。
WHOの専門家グループは3つの被災国での研究を実施した多くの科学者から構成されています。
WHOの専門家グループは、特に科学的な質を重視しました。
日本の被爆者研究との比較も行われました。
チェルノブイリでの20年間の蓄積線量は次の通りです。
なお、自然放射線量は20年間で48ミリシーベルトですので、汚染地域居住者の500万人は自然放射線のレベル以下の被曝が自然放射線に加わったということになりますが、合計線量は、地球上の自然放射線の分布変動範囲内です。
放射能軽減作業従事者(1987年まで)24万人・・・100ミリシーベルト以上
避難者(1986年)11万6千人・・・33ミリシーベルト以上
厳戒制限区域居住者27万人・・・50ミリシーベルト以上
汚染地域居住者500万人・・・10~20ミリシーベルト
24万人の放射能軽減作業従事者のうち134人が急性放射線症の発症の可能性がある高線量の被曝を受けています。
このうち28人が1986年に死亡しました。
急性放射線症以外の死亡は、100ミリシーベルトより低い被曝では仮説にしかすぎませんが、専門家グループは、最も被曝量の高い3つの集団に確率的影響があると仮定し、生涯の癌死亡者が4000人超過すると結論しています。
なお、被曝がなくても、この3つの集団では12万人以上が癌で死亡すると推計されています。
汚染地域居住者500万人についても確率的影響を当てはめると、さらに5000人の癌死亡が追加される可能性があり、薄い汚染のヨーロッパでも死亡追加の可能性はありますが、これほど低い線量での確率的影響は実証困難です。
増加が実証された健康影響は、住民(こども)の甲状腺癌と放射能軽減作業従事者の白血病くらいです。
先天奇形や死産などの生殖への影響については、汚染地域と非汚染地域での比較において、被曝との関係を示す統計は出ていません。
以上がWHO報告の要点です。
報告書では、甲状腺癌や白血病など、さらなる調査が必要とされている事項もありますが、チェルノブイリ事故で数百万人が癌になるというような情報は、500万人の汚染地域住民の生涯の癌発生率(3人に1人)をそのまま事故影響と短絡させたか、ヨーロッパ人口や地球人口を母数として、自然放射線レベルの被曝に確率的影響を当てはめた結果であろうと思われます。