医療制度の課題(1):経済同友会

医療費の増加への対応として、経済同友会の報告書は次の文章から始まっています。

政府の報告書だと医療費抑制が前面に出されるところですが、抑制より管理だと言っています。

 

「医療費の主な増加要因は、医療技術の進歩、経済成長による生活水準の向上、高齢化であるが、これらは豊かさの表れであり、今後も国民が享受し続けたいことである。

したがって、医療費の増加を無理に抑制するのではなく、いかに管理していくかが今後の重要な課題になる。」

 

この着想のもと、次の提言がなされています。

 

○公的医療保険での負担には上限を設ける

「公的医療保険で負担できる範囲には限界がある。

医療費のうち社会保障として給付する部分の増加については、高齢者人口の増加や、経済成長の伸びを踏まえ、その上限を設けることが妥当である。

医療サービスの提供体制を見直し、非効率や無駄をなくすこと、公的医療保険の適用のあり方を検討することが必要である。」

○混合診療を拡大し、医療サービスの選択肢を広げる

「公的医療保険が適用されない医療については、自由診療になる。

患者の同意取得と、不当な上乗せ請求を防ぐための厚生労働省への届出制を前提に、公的

保険適用の診療と患者の自己負担による自由診療との併用を可能にし、混合診療をさらに拡大する必要がある。」

 

医療界で何十年も論争が繰り広げられている「混合診療」の導入の提言です。

現在の医療保険制度は、保険診療と自由診療との混合は、原則として認めていません。

※原則としてというのは、一部の先進医療(治験など)や患者の治療効果に直結しないこと(アメニティなど)については、付加的な支払いで付加的なサービスを許す例外があるためです。

治療効果に直結する医療については、効果ある医療は保険診療による平等な機会を万人に与えるべきとの考え(哲学)のもと、特別な医療を望む人については保険診療の適用をしないで自由診療のみ(すなわち全額自己負担)で受療するルールとなっています。

国民みんなで出し合ったお金が、経済的ゆとりがある人のわがままのために使われるのはよくない、という論理です。

経済同友会は、「保険料を支払っている一方で、公的保険が適用されるべき医療サービスについても自己負担になることは、社会保険に求められる役割に充分に応えていないとも考えられる」という見解です。

診療効果が認められる医療については積極的に保険診療に取り入れ、先進医療や海外承認医薬品など一般化されていない医療については保険対象外となっているのが現状ですが、この制度設計が、保険診療の範囲を際限なく拡げ、医療費の高騰を招いた側面があることは否めません。

経済的にゆとりがある人が相応の負担をして(万人向けではない)先進医療を受けてどこが悪いのだ、という論理は成り立つかもしれませんが、その論理を社会保障の論理と組み合わせると、あちこちで矛盾が生じてきます。

万人と異なる医療であれば、自由診療の論理を貫くほうがすっきりするような気がします。

医療を維持するための財源の閉塞感を打ち破るには、自由診療の拡大は方法論として有効ですが、混合診療として自由診療部分を拡大する制度設計については熟考が必要です。

新薬や新しい医療技術を積極的に保険診療に取り入れるべきとのモチベーションが弱くなるのは自明のことで、保険診療の範囲内で行われる医療の進歩が停滞するかもしれません。

保険診療部分への新規参入の魅力が薄れ、自由診療部分の市場が拡大すれば、投資は自由診療部分へ集中することでしょう。

新薬の多くが保険適用を望まなくなるおそれもあります。

保険による統制価格より高い価格での流通が期待できるからです。

自由診療は価格統制の箍(たが)が外れます。

「産業」としての魅力も大きいでしょう。

健康産業の隆盛を見るまでもなく、患者の不安心理に乗じて自由診療部分へ導くのは容易でしょう。

混合診療の解禁によって医療「産業」が際限なく発展するであろうことが予想されます。

トータルの医療費は際限なく増加する、すなわち国民の医療費負担も際限なく増加するけれども、社会保障部分の医療費は増加しない、という未来予想図です。

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