戦争の話(22)

<橋爪一郎従軍記>

   南国だったのかの巻

 まっ黒い貨車にとじこめられたままで、三日か四日か運ばれている間に、汽車の中がだんだんと暑つ苦しくなって来ました。皮の外(ガイ)とう(オーバー)をぬぎ、毛皮の靴をぬいでもまだむし暑く、汽車の中は、いよいよ、体の置き場所もないくらいに品物で一ぱいになりました。寒い国へ行っているはずであるのに、日に日に暑くなるとは不思議でなりません。どうも変だ変だと言っているうちに、私たちの汽車は、変なはずである所に着きました。そこは、(今の中共の中の)満州と支那の国境である山海関(サンカイカン)でした。今までよりもずっと南ですから暖かいはずで、着れるだけ着ていた冬の服装でのせまい汽車の中は暑苦しいにきまっています。ここで全員初めて汽車から降りました。ほっと一息つくひまもなく、上官の命令です。「みんな良いかッ!!直ちに次の事を実行せれ!!」「一ッ汽車の中には紙くず一枚も残してはいけない」「一ッ官物(軍隊のもの)はすべて返納せろ、フンドシ一枚でも持ってはいかん!!」私たちはここで、満州からの品物は一ッ残らず満州に返して、新しい服、新しい帽子、新しいタオル、フンドシまでもらいました。鉄砲も玉も返してしまいました。そして体につけたものは、防暑帽をはじめ、何から何まで南洋の熱帯地方の服装でした。上は半袖夏シャツ一枚、下はダブダブの半ズボン、誰でもひざから下はヒゲムジャのひょろ長い足まる出しです。半ズボンの下から風がスウスウはいって気が気ではありません。鉄砲も持たず、剣も持たず、丸腰のままの兵隊になってしまいました。再び貨車に乗りこんで、汽車は更に南へ南へと進んで行きました。今度は広すぎる貨車の中で寒さにふるえて一かたまりの旅を続けました。

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