戦争の話(14)

<橋爪一郎従軍記>

   休戦ラッパ鳴りわたるの巻

 戦争開始で、私達は完全軍装(グンソウ)の油汗、冷汗。誰もがだまっているけれども、心の中では家のこと、親のことなど考えながら先へ先へと進んで行きました。私も『家に手紙を出しておけば良かった』『このまま死んでしまうのだろう』と胸の中は一ぱいでした。昼頃、広い野原までやって来ましたが、敵は静まりかえって何事もありません。『戦争はこんなに静かなものだろうか?』所が静かなはずです、はるか遠方よりラッパのひびき、そして私たちの部隊のラッパ手も大きな音で休戦のラッパを吹きならしました。私たちは完全にだまされていたのです。実戦通りのケイコだったわけです。ゆうべからふるえていたことがおかしくもあり、腹立たしくもあり、また、こんなにもまんまとだまされるものかと感心もし、兵隊という所がどこまで妙な所だろうかとつくづく思いました。

 実は、年に二、三回、こんなケイコがあるのですが、私は、二度目も完全にだまされ、その時も本当の戦争かと思いました。三度目は半信半ぎ、四度目は始めから、ウソだと思って、荷物は軽く、うまい食べものだけ、着物も下着の方は古物でいつもの通り、大事な品物はみんな兵舎においたままで出かけました。このことは又後で書くつもりですが、その四度目はケイコではなくてホンモノでした。昭和19年2月24日朝3時、四度目の非常呼集は忘れもしない満州三〇六部隊さようならの日だったわけです。しかしさようならの前に、もう一、二回だけ、この三〇六部隊での思い出をつづりたいと思います。休戦ラッパ後のかえり道の弾薬の重いこと、それも忘れられない思い出です。

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