<橋爪一郎従軍記>
戦争開始のラッパ鳴りひびくの巻
ま夜中に「非常呼集」の合図で飛び起きて、それから戦争のケイコに出て行く事はたびたびでした。まっ暗やみにねぼけヅラ、石につまずいてひっくり返って目がさめるのが人なみで、一晩に四回も五回も非常呼集があると、ひっくり返ったまま眠っている兵隊も時には出て来ます。上等兵に起こされて、目の玉から火が出るくらいヒッパタかれて顔はまるばれ、こんどは、目がはれふさがるといった具合です。どんなにたたかれても死にはしませんが兵隊はつらいものです。
すぐ目の前はにらみ合った敵の国、ソ連の国、とつぜん「戦争開始」のラッパがトテトテターと鳴りひびきました。さあ一大事、部隊長以下全員ガバッと飛び起きて戦争準備です。一等兵の私たちは、何だか膝のあたりと奥歯がガタガタふるえて「もの」もよく言えないくらいです。今まで着ていたものは軍服、シャツ、ふんどしまでみんなぬぎすてて新品に着がえます。靴も帽子もみんな新品(第一装)、背(ハイ)のうには十日分位の食料と大事な自分の品物など。実弾百二十発に戦車地雷一コ、パイナップル型手りゅう弾三発、天幕、外とう、円ピ(スコップ)など一式。それはまた大変な品物です。全部体につけると立ち上がるのがヤットコサ、しかし、それだけかついで整列、隊長の命令号令で敵の方に向って前進しました。あまり遠くへ行かないうちに、汗だくだく、夜が白々と明け始めました。まだ弾丸(タマ)の音は一ツも聞えません。「ああいよいよ日ソ戦争、名誉の戦死か」心の中でつぶやいて覚悟をきめました。誰の顔も汗だくのくせに青白く見えます。そして・・・・・