<橋爪一郎従軍記>
ドカンと一発の用意の巻
ソ連との国境の守りは固いものでした。私たちが陣取っていましたカンガシ溝の近くに臼砲(キュウホウ)部隊がありました。臼砲とはうすの大砲のことで、日本の秘密兵器の一つでしたが、これは一発だけしか射てない大砲です。ドカンと一発うてば、大砲はこわれてそれまで。その代りに、弾丸(タマ)の大きさが大きいのは直径五十センチもあります。敵の陣地に必ず落ちる弾丸で、この臼砲を射つのは、ずっと離れた所の地下の押しボタンです。今のロケットみたいなものです。いざ戦争という時にはソ連へ向ってドカンです。また、国境の川の下にトンネルをほって、敵の陣地の真下に火薬をどっさり置いてあります。これもドカンです。日本軍はあらゆる手をつくして国境を守っておりましたが、ソ連の方でも私たちをねらっておったろうし、私の真下にはソ連のダイナマイトが土深く仕掛けてあったかも知れません。こうしたものものしい戦争のかまえをしているのにソ連の方は女の兵隊だから、こちらは気合いぬけです。(その頃日本とソ連は戦争をしない約束ができていました。) 私たち満州三〇六部隊は、強い関東軍の中でも特に強いと言われていましたが、この頃から一コ大隊(約五百名)ずつ、満州をはなれてビルマや南洋の方へ移って行きはじめました。だんだん淋しくなる三〇六部隊の中で、私たちはいつ戦争になってもよい構えだけは、ちゃんとやっておりました。