<橋爪一郎従軍記>
鉄砲で魚取りの巻
ソ連国境スイ芬(フン)河の守りは命がけですが、楽しいものでもありました。河の真ン中を越えさえせねば、射たれる心配はないのですから、歩哨(ホショウ 見張り番)に立ってない時は魚取りがいい遊びでした。餌もいらない、釣り糸もいらない、鉄砲かついで、山坂下って川の側まで行くばかりですから簡単なものです。
水は美しくすみ切って、浅く、自然のままに流れていて、遊ぶ人もいない国境ですから、まるで魚の天国です。所で魚取りは、天皇陛下にはないしょですが、川の底に、目くら打ちに五、六発ボンボンと射ちこめばそれで準備完了、鉄砲を横において、腕をまくって一、二分もすると長さ10センチから時には30センチもあるような、ふなみたいなやつがキラキラとひっくり返って浮いて来ます。す早く拾い上げて、一丁上がり、魚は当って浮いたのではなく、脳しんとうでノックアウトの状態ですから、二十も数えているとキラッと返って、泳いで逃げてしまいます。
この河、冬はすっかり氷ってしまって、アスファルトよりもスペスペの立派な道に変ってしまいます。氷を丸くほがして(石油がんの中で油をもやして氷をとかすのですが)、釣り糸でつると時たまかなり大きな魚がつれることがあります。しかし冬は寒くて、遊びにならないのでめったに魚取りはしません。
国境の夜は、昼間とは変って、急にぶっそうな、うす気味悪い事ばかりです。あちこちに、意味のわからない電灯の光りがピカピカと何回も光ったり、キリキリと輪をえがいたり、花火の様な照明弾が上がったり、それ等は、みんなスパイたちの暗号です。いつ後からブスッと串(クシ)ざしに殺されるか、昼の魚の二の舞が夜の私達です。