<橋爪一郎従軍記>
星がふえて嬉しかったの巻
兵隊は星の世界、夜の世界みたいなものです。油断をすれば、鉄砲でも、軍服でも平気でなくなり、人に見つからないように、人の物を持ってくれば上官は知らぬふりをしてくれます。兵隊では、いつどんな時でも、きまった物をきまった数だけ持っていることが一番大事で、一品でもたりなかったら、ほほっぺたの丸ばれ(たたかれて)はまちがいなしです。
物が足りない時に、それをそろえる-員数つける-のは二等兵の仕事で、実につらいものです。どろぼうの名人になるために二等兵は死にもの狂いの努力をしなければなりません。目の玉は、ギョロリと光って、耳は、ちょう音器のようにとがっていなければなりません。
死ぬような六ヶ月をすぎて、私は外の者より半年先に、忘れもしない七月十日に一等兵になることが出来ました。二ッ星です。今までただ一度も、号令をかけて人をつれて行ったことのなかった私は、今日からは、一ッ星の子分をつれて行くことが出来るのです。一ッ星の中には、一年も二年も前から兵隊に来て、成績が良くなくてそのまま一ッ星の者もたく山います。二年すぎて一ッ星の者を古兵殿といい、三年すぎても二等兵の者を神様とよんでいましたが、そんな者よりも二ッ星の方が位は上です。今こそヤセギッチョンの私もその頃は六十五キロをこえていましたので大きな声でいばって一等兵をつとめました。
四月一日生れの私は兵隊の中では一番年下で、二等兵はみんな年上、いい気持でした。