<橋爪一郎従軍記>
満州は暑かったの巻
五月上旬雪どけ、六月やきつくような真夏、春はわずか四十日ばかりです。春は花園、目もさめんばかりの忘れられない花の春の話は後にして、満州の夏の話です。
満州の太陽は日本のよりまん丸く、昼は金色、夕方は大きくて黄色、そんな気がしました。だだっ広い荒野の端から朝日は昇って、再び土の荒野に沈んで行きます。七月はま上に太陽があって、自分の影は足のまわりに黒くまん丸くうつります。そんな時が一番暑い時、そしてその暑い最中を使って、飛行機を相手の夏季大演習が始まるのです。
鉄かぶとをかぶって、体中すっぽりとギソウモウと言う目の荒いあみをかぶります。そのあみの目に所かまわず木の枝、草のつる、何でもかでもさしこんでつけるのですが、出来上りは、まるで一ッの人間のやぶ、人間の森です。飛行機から見えないようにぎそうして歩くわけです。こんな時は暑い寒いの段では勿論ありません。汗はタラタラ、目は汗の塩でまっかです。首すじには、白く汗の塩が筋を引きます。飛行機が来れば、一せいに座って、実弾(本ものの弾)で射ちます。飛行機が引っぱってくる吹き流しを射つわけですが、飛行機の方を射ちます。後で吹き流しに当った丸の数で私たちの成績がきまるのですが、暑さのやけくそで飛行機の方がねらわれてしまいます。暑い上に昼食は煙が出ないように火のかんづめを使ってたくので苦労と暑い事この上なし、満州の夏は地獄の火の釜でした。