戦争の話(7)

<橋爪一郎従軍記>
   満州は寒かったの巻
 「寒い」という言葉はまだ暖かい時に使うもののようです。痛くてどう言いようもない時がほんとうの寒さであることを、満州で初めて知りました。
 リンゴはガラス玉のように氷って、小刀の刃も立ちません。にぎりめしをかめば、歯がかげそうで、一粒もはずれません。
 炊事場の倉庫にはトウフ、コンニャク、ジャガイモなどレンガや石ころそっくり。けんかでもして投げ合うなら、コンニャクでもりっぱなけんか道具になりそうです。大便が氷り、小便が氷り、川が全部氷の道になってしまいます。
 一年中で一番寒そうな時を特にえらんで年に一度の冬季大演習が行われます。
 全身を毛皮の服でつつんで、目の玉だけがはだかのまま、鉄砲も金の所は布でつつんでしまって、めったに金の所を外に出しません。うっかり、素手のままで金をにぎったら、手の皮がひっついてはずれないのです。どんなに寒い日でも、何もかも我まんして、だまって働くのが二等兵ですから、上等兵などが火をたいてあたっていても、私たちは、ただ、まきを見つけて運んで持って行くばかりです。
「おい、二等兵寒いか?」「ハイッ、あまり寒くないであります。」「おお、そうか、そりゃ都合がよいな。」ざっとそんな調子、「ハイッ、きのうより寒いであります!!」「そうか、凍傷(トウショウ)にかからんごと動くがいいぞ、まきさがして来い。」どちらどう答えても、一冬中火の側に行きつくことは殆んどありません。レイ下四〇度、そのおみやげが今も私の左足親指に凍傷痕(アト)として残っています。

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