<医療の需要と供給 1>
需要に対して供給が足りなければ、必要な医療が提供できない人が生まれます。
医療は人の生死に直結しているので、供給不足の事態は避けなければなりません。
対し、需要に対して供給が過剰であれば、供給体制を維持するためのコストが余計にかかってしまい、医療費の高騰を招いたり、不当な低コストでの経営を強いられたりします。
昨今の「医療崩壊」は、医療の需要と供給のミスマッチが表面化したものです。
では、医療の需要と供給とがぴったりとマッチした状態が理想かというと、そうとは言い切れないのが医療の難しいところです。
精緻な統計を取って医療需要の全体像を把握し、その需要にぴったり合った医療供給体制を整えたとすれば、専門医は労働時間をフル稼働で、病床は常に満床という、究極の効率的な医療が実現できますが、そういう医療は現実に対応できません。
医療需要には予測不能性があります。
いつ、どこで、救急患者や、専門的な治療を必要とする患者が出現するかわかりません。
病床が常に満床であれば、救急患者はどこも受け入れられません。
専門医がフル稼働であれば、新患を受け入れる余裕がありません。
では、予測不能性に対応するには、どのくらいのゆとりが必要でしょうか。
診療時間内に小児科医師が5人常勤しているような大病院を想定します。
彼らが90%稼働しているとすれば、救急の小児科患者が飛び込んできた場合、半々の確率(ゆとり10%×5=ゆとり50%)で、5人とも他の患者の診療に追われており、対処が遅れてしまうことになります。
急患の処置が遅れないためには、せめて20%のゆとりがほしいところです。
医療には、ある程度のゆとり(供給過剰状態)がなければならないのです。
ところが、医療費抑制が長く続くうちに、ゆとりが経営危機に直結するようになってきました。
どの病院も、医師を食事の時間も取れないほどフル稼働させ、病床利用率を100%に近づけるのに躍起です。
なお、医療には、供給が需要を喚起する側面があり、20%のゆとりをもった供給体制を構築しても、需要が喚起されてゆとりが縮小する傾向になります。
外科医師が多い地域では外科手術が多く、病床数が過剰な地域では入院患者数も多くなります。